「俺とデートしてよ、紫穂ちゃん」チルドレンの待機室。いつものように仕事の合間にやって来て、いつものように紫穂ちゃんに声を掛ける。ここ最近の、俺のルーティンワークとでも言えるこの行動。それこそ、最初の頃はチルドレンたちの冷やかしやからかいも多かったが、最近はもう皆慣れたもんで俺たちの行動を見守ってくれている。というのも、このお誘いは、成功したことがないからだ。「…」紫穂ちゃんは俺の方を見ることもせず、ずっとハイティーン向けの雑誌をペラペラと捲っている。正直、切ない。また断られるんだろうな、と思いながら、顔には笑顔を浮かべたまま。だって、ちょっとでも軽いノリでいないと、悲しいじゃないか。この片想いは届かないと言われているようで。「…いいわよ。」パタン、と雑誌を閉じて、紫穂ちゃんがこちらへ向き直る。「…え?」「いいわよ。デート、してあげる」「うそ、だろ」「…ホントよ?しましょ、デート。」誘い始めてから、今日で百日目。いつもと違う返答に、心拍数が一気に掛け上がる。「い、いいの?俺とデートで」「先生が誘ったんじゃない。」変なの、と言いながら、紫穂ちゃんは再び雑誌をペラペラと捲り始めた。思わず、座っていた椅子が後ろに転けるのも気にせずに勢いよく立ち上がる。嬉しい。嬉しくてにやけてしまう。顔の緩みを隠すように、口元に手をやる。ここで、キモいからやっぱり止めた、なんて言われたら、俺は確実に再起不能だ。今日も俺たちの様子を見守っていたチルドレンたちが、口々におめでとう、とかやったね先生、とか俺に向けて小さな声を掛けてくる。うん、マジで。天変地異で明日が来なかったらどうしよう。「え、じゃあ、いつ空いてる?俺、来週ならいつでも空けられるけど」「じゃあ、来週の木曜日でもいいかしら?」ちょうど学校が午前中だけなのよね、と言う紫穂ちゃんは相変わらず雑誌から目は離さない。態度はつれないけど、予定を決めてくれることが嬉しくて。舞い上がって今なら俺も空飛べるんじゃないだろうか。「じゃあ、午後イチで迎えに行くから。」「…期待せずに待ってるわ」最後になってやっと、紫穂ちゃんは口許を緩く弧にしてこちらを見た。やっと見ることができた紫穂ちゃんの笑顔はやっぱり可愛い。今日イチの可愛さなんじゃねぇかという顔を心のシャッターに納めて、転けた椅子を元に戻す。「じゃあ来週の木曜日な!楽しみにしてるからな!」とびきりの笑顔を紫穂ちゃんに向けて、待機室から立ち去った。大人気ないくらいに浮き足だって、スキップでもしてしまいそうだ。できるだけ歩くスピードを遅くと意識したが、自然と早足になる足はどこまででも進んでいけそうで。ああ、どうか来週の木曜日は、午前の急患とかオンコールがありませんように。紫穂ちゃんとのデートは何処へ行こうかと考えながら仕事へ戻った。
決戦は木曜日。



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