賢木修二はネコである!

一緒にいる機会がおおいのはアナタたちだけじゃないのよ?(バレット、ティム→賢木、ほんのり九具津→賢木)「お誕生日おめでとうございます!」「賢木先生! コレ、僕たちから!」「お! 毎年毎年サンキューな!」 廊下の端で繰り広げられる遣り取り。それを少し離れたところからジッと見つめる。端から見れば、後輩から慕われる先生の、和気あいあいとした好ましい風景。 でも私は知っている。そこに純粋な憧れ以上の感情が紛れていることを。「今年は何くれたんだ? 今開けてみてもいいか?」「ダメだよ先生! お楽しみはあとに取っておかなきゃ!」 開封の儀は家でじっくり楽しまないと! という楽しそうなティムの声がこちらまで響いてくる。「え? 何それ、かいふうのぎ?」「我々は新しいグッズなどを祭壇にお迎えする際、開封を儀式化するのであります!」「はぁ? さいだん? おむかえ?」「まぁとにかく! そうやって大袈裟にやった方がテンション上がるよねって話!」 だから家で開けるの楽しみにしてて! と嬉しそうなティムの横で、頬を赤くして一心に先生を見つめているバレットがピシリと直立している。 そんな二人の様子をジトリと見つめながら、じっと堪えて腕を組みながら話が終わるのを見守っていた。「よくわかんねぇけど、今年もプレゼントありがとな! 大事にするよ」 嬉しそうに包みを抱えて、先生は二人に手を振ってそこから去っていく。残された二人は余韻に浸るようにその後ろ姿を見送っている。先生が見えなくなった頃にやっと二人は赤くなった顔を見合わせて、まるで女子かと突っ込みたくなるくらいにきゃいきゃいと騒ぎ始めた。――フン。いい気になるのもそこまでよ。 キッとはしゃいでいる二人を睨み付けてから、カツカツとわざと足音を立てながら近付いて。その足音に気付いたのか、びくりと肩を震わせだ二人が恐る恐る私の方へ振り返った。それににっこりと笑顔を返しながら、二人の目の前まで歩いていって、ピタリと足を止める。さっきまでの恋する乙女みたいなキャッキャした空気は霧散して、蒼い顔をした二人が震えながら私を見ていた。 そんな二人に、改めてにこりと首を傾げながら綺麗に微笑んでみせると、二人は仲良く手を取り合って、ひぃ、と小さく声を上げる。「ねぇ」 自分よりも背の高い二人を意識的に見下ろすように視線を投げ付けて、肩に掛かった髪をふわりと片手で背中に払った。「今年は何を渡したのかしら?」 腕を組みながら問いかけると、ひょぇ、と小さく悲鳴を上げた二人が後退った。「あら、そんなに怖がることないじゃない。私は何を渡したのか聞いてるだけよ?」「そ、その顔はとてもそんな顔には見えないよっ!」 怯えた仔猫のように震えながらも一生懸命叫んでいるティムに、フン、と鼻を鳴らして余裕たっぷりに笑い返す。「それはあなたたちに後ろめたいことがあるからそう見えるんじゃないの?」 ギン、と眉間に皺を寄せて二人を睨み付けると、顔を青褪めさせながら二人は更に震え上がった。 これ以上ビビらせても話は前に進まない。ふぅ、と息を吐いてからにこりと笑って二人に向かって問いかけた。「で? 今年は一体何をプレゼントしたの?」 組み直した腕に添えた手の人差し指をピンと立てて、トントンと自分の腕を叩きながらじっと二人の返答を待つと、二人はお互い反対の方向へ目を逸らして返答を拒否してみせた。「へぇ……その態度は透視してもいいってことかしら?」 にこり、と更に顔の笑みを深めながら手のひらを翳してみせると、二人は綺麗にシンクロしてぷるぷると首を振ってみせた。「じゃあ、教えてくれるわよね?」 こくこくと首を縦に振った二人に、さぁ早く教えなさい? と先を促すと、顔を蒼くしたままのバレットがゆっくりと口を開いた。「……こ、今年は何も仕掛けてません」「今年も何か仕掛けてたら警察に突き出すわよ」 キッとバレットを睨み付けると、ひょえぇと何とも頼りない悲鳴を上げて涙目になっている。情けない。そんなんで先生とどうこうなろうっていうのが戴けない。だって敵は私だけじゃないんだから。「去年あなたたちがキーホルダーに仕掛けた盗聴器は責任もって処分させてもらったわ。犯罪を揉み消してあげたこと、感謝してくれるかしら」「はい! どうもありがとうございました!」 二人は涙しつつも私に向かって敬礼をしながら大声で叫んだ。「で? いい加減、今年のプレゼントは何だったのか教えてくれるかしら?」 うふ、と笑いながら首を傾げて問いかけると、うう、と小さく唸りながら、バレットが口を開いた。「じ、じゅうにぶんの、いち……」「……十二分の一?」 バレットの言葉に眉をひそめて首を傾げてみせると、バレットは意を決したのかごくりと息を呑んでから改めて口を開いた。「1/12スケールフィギュア『賢木修二(ハイタッチver.)』」 さらりと告げられた内容に一瞬だけ思考停止して、ハッと目を見開いて二人に掴みかかる。「何それッ! 非売品じゃないッ!!!」「当然だよ! 開発に一年掛けた逸品ものだよ!!!」「ハァッ? それはそれでキモい!!!」「ひどいッ!!!」 わーわーと叫ぶ二人に少しだけ後ずさりながら、コホンと咳払いして体勢を立て直す。腕を組み直してからジト目で二人を睨み付けると、うう、と小さく呻き声をあげて二人は黙り込んだ。「で? その非売品、どうやって入手したの?」「それは、その……とあるツテに頼んで、作ってもらったんだよ」「……九具津さんね?」「わかっているのにわざわざ確認するのは卑怯であります」「……何か言ったかしら?」「いえ! 何も!!!」 キ、と強い視線を投げつけると、バレットがビシ、と私に向かって敬礼してみせた。「……何か変な機能が付いてるとかないでしょうね?」「む、無理だよ! フィギュアにそんな法を侵すような機能搭載できないよ!」「そうかしら? あの九具津さんでしょ? 何かしててもおかしくないし、あなたたちが頼み込んだ可能性だって否定できないじゃない」「今回は断じて怪しいことは何も! 製作をお願いするだけでも大変でしたから……」 ゲッソリとした表情で告げたバレットからは、この一年の徒労が垣間見える。「……でも、九具津さんなのよ? 賢木先生への私怨とか籠もってそうじゃない?」「それは大丈夫だよ! 過去の借りを返すつもりで今回きりで製作するって言ってたから」 天真爛漫な笑顔をこちらに向けるティムの純粋な眩しさに、思わずウッと目を瞑った。それにしても、九具津さんとティムとバレットのことを信じたとして、本人のフィギュアをプレゼントするという発想に疑問を覚えて更に二人に畳みかける。「まぁいいわ。でも、どうして本人のフィギュアなの? 気持ち悪がって飾ってくれないかもしれないじゃない」「そんなことないであります! 絶対賢木先生は飾ってくれるハズであります!」「その自信の根拠は一体何なのかしら?」「だって賢木先生ナルシストじゃん。超カッコよく仕上がったから、多分職場の一番皆の目に付くところに飾って自慢すると思うんだよね」 うんうんと首を縦に振っている二人の話を聞いて、簡単にそれが想像できてしまう自分が恐ろしかった。 確かに、先生は自分のフィギュアなんて他人から見れば相当気持ち悪いモノを、皆に見せびらかして自慢して、オマケに自分の格好良さに改めて感銘を受けるところまでしてくれそうだ。 うわぁ、と頭を抱えながら、ふと思ったことを口にする。「……ねぇ、写真ないの?」「え?」「フィギュアの写真。あなた達は完成品を見たんでしょ? その時、写真撮ったんじゃないの?」「あー、もちろん撮ったよ。見る?」「当たり前でしょ? 見せなさい?」 まだあなた達を疑っているのよ私、という体を保ちつつ、そのフィギュアに興味があることがバレないように手を差し出す。すわすわとスマホを操作していたティムからスマホを受け取って画面を確認すると、かなり再現度も高ければクオリティも高い賢木先生のフィギュアがそこに写っていた。「嘘、ナニコレ。本人じゃない!」「デショデショ! 流石九具津さんだよね!」「クオリティ高すぎじゃない? コレ、私もほしいんだけど!」「絶対に本人用の一体しか製作しないという約束で製作して頂いたので、依頼者の我々ですら保持していません! そこは全員絶対不可侵であります!」「チッ……でも、逆に言えばその一体を保持してしまえば、この世の誰もそのフィギュアを見ることはできない。そういうことね?」 ニヤリ、と二人に意地悪く笑ってみせれば、ぶるぶると震えながらも子犬がきゃんきゃんと吠えるように反論してくる。「ダメだよ! あれは僕らから賢木先生への誕生日プレゼントなんだよ!」「賢木先生へのプレゼントを強奪するのは流石に戴けないであります! それこそ犯罪であります!」 自分たちのプレゼントを何とか死守しようと必死な二人にフフフと余裕の笑みを返す。「賢木先生本人が進んで私にそれをくれる場合は、強奪とは言わないわ」 うふ、と優しく微笑みかけると、ひょぇえ、と二人は涙目になりながら震え上がった。「私と先生の仲を舐めないでくれるかしら? フィギュアのひとつやふたつ、譲り受けるなんて造作も無いんだから」 フン、と鼻を鳴らしてやると、目に涙を浮かべたまま、ティムがキッと視線を強くして小さな声で呟いた。「……そんなこと言って、別に付き合ってるワケでもなんでもないくせに」 ぷぅ、と不貞腐れているその様は可愛らしい。でもその可愛らしい口から溢れ出た言葉は全くもって戴けない。「……何か言った?」「いえ! 何でもありません!!!」 ぎろり、と睨み付けてやると、慌てたようにティムの口を塞いだバレットが泣きそうになりながら必死に首を振って否定している。それにもう一度、フン、と鼻を鳴らしてビシリと二人を指差しながら口を開いた。「私と先生はあなた達より付き合いが長いんだから! 付き合いの長さじゃあなた達には負けないわ!!!」 キッと眉を吊り上げながら叫ぶ。ごめんなさいーと泣き出してしまった二人に溜飲を下げて、じゃあそういうことだから、と笑顔でその場を立ち去った。きっと先生はフィギュアを私に自慢してくるはず。その時に褒めちぎって、コレやるよ、のひと言を引き出してしまえば私の勝ち。付き合ってなくたって、私たちはそういうことができる間柄なんだから! と自分を慰めるように言い聞かせた。

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