俺はいつからこんな風にカッコ悪くてダサい男に成り下がってしまったんだろう。好みのリサーチなんて当たり前。オマケに相手が喜ぶ演出を付け加えてプレゼントを用意するなんて、俺にとっちゃ朝メシ前のハズだったんだ。それがこの催事場に来てからぐるぐるうろうろと、アレもいい、コレもいい、なんて二時間も迷い続けてる。うっかりすれば全部購入してしまいそうになるのを必死になって抑えつけ冷静さを取り戻すフリをして、俺から貰ってもあの子は何も思わないかもしれない、なんて落ち込んでは溜め息を吐くの繰り返し。結局冒険する勇気も出せず、選んだのはド定番のちょっとだけ見栄えがする価格帯のもの。何だかなぁ、と思いつつ、素直になる覚悟も持てない自分はこれくらいがちょうどいいのだと言い聞かせる。大切で、大事すぎて、自分が知ってる愛してるだとか好きだとかそんな言葉じゃ語れないくらい、いつの間にかあの子は自分にとっての特別になっていた。ひょっとしたら自分は皆本なんかよりもずっとずっと拗らせているのかもしれないという自覚はある。相手はレベル7だ、膨らみすぎたこの想いはきっとバレているんだろうという自覚もある。バレていて気付かないフリをしてくれているのか、それともバレているけど無視されているのか、それが自分のレベルじゃわからないのが口惜しい。せめてあの子の本音が覗けたらって思うけれど、いつだって俺はあの子に勝てないんだから仕方がない。オンナノコに振り回されるのは嫌いじゃなかったのに、いつの間にこんなに弱くて女々しい男になったんだろうな。ブランドの小さな紙袋から小さな箱を取り出してできる限りの痕跡を消していく。丁寧に紙袋へそれを戻して、紙袋に残る痕跡も綺麗に消した。痕跡を消していることはきっとバレバレで、でも痕跡を残さずに済ませられるほど穏やかな感情は持ち合わせてなくて、どこまで行っても負けが確定している戦に気合を入れるしかない。「おー、紫穂ちゃんおつかれ。今休憩?」医局のデスクで休んでいた紫穂ちゃんに、たまたまを精一杯装って声を掛けた。「これ食う? よかったら食べてくれ」「食べる! アリガト」にっこり笑って奪うように紙袋を持っていく紫穂ちゃんに、バカになったみたいに舞い上がる。あぁ、これだけで充分だ。その笑顔に振り回されるのが、今の俺にはちょうどよくて、最高に心地良い。「ねぇセンセ?」紙袋から取り出した箱をまじまじと見つめる紫穂ちゃんは、上目遣いにちらりと俺を覗き見る。きらきらしたその視線にドキリとして目を逸らすと、わざわざ俺の顔を覗き込むような仕草をするのが本当にあざとい。腹立つ。可愛い。「コレってバレンタイン? それとも誕生日?」俺にだけ聞こえるくらいの音量で、わざわざ俺に身を寄せて聞いてくる紫穂ちゃんは、大きな目を更にきらきらさせて俺を見つめてくる。「……あー」自然を装って渡せる理由をふたつも用意しないとプレゼントすら出来なくなった俺は、なんて意気地無しなんだろう。「……どっちも、だな」本当なら赤い薔薇の一本でも添えてデートに誘うまでがしたいのに、とてもじゃないができそうにない。自分の方がひと回りも歳上で、経験だって人並み以上にあると思う。それなりに遊んできたつもりもあって、退屈させない自信だってあるハズなのに、真面目に向き合おうとすればするほどどんどん臆病になって、遠くから見守るくらいがちょうどいいと逃げ腰で言い聞かせる自分がいた。そのクセ、誰か他の男が近付こうとするなら徹底的に調べ上げて蹴散らしてみたり、本当にみみっちくてますます男としてダメになっていってる気がする。いつか、俺が心底認めるイイ男が現れたなら諦められる。いや、諦めなければならないんだ。白衣のポケットに突っ込んだ手は色が変わるくらい強く握りしめている。透視能力なんて持ってしまったばっかりに、本音を隠すことばかり上手くなって精一杯大人のフリをした。「……ふぅーん?」「……なんだよ」じっと探るような目を向けてくる紫穂ちゃんは相変わらず可愛くて、もし許されるならしっとりと濡れたやわらかそうな唇に触れてぷくりとした膨らみを味わいたい。あーもう。叶いもしない妄想を思い描くのはイイ加減卒業したらどうだ。そろそろ大人になりたい、いや、なれよ。「あのね? センセ」「……だから、なんだよ」「もうそろそろ、いいかなって」「……は?」取り繕った表情が崩れてしまいそうなほど、紫穂ちゃんは真面目な顔をして俺の目を覗き込んだ。今考えていた妄想がバレたのか、はたまた何もかもバレているから腹を括れということなのか。それでもしらばっくれるくらいには、こっちだって図太くなっている。なけなしの根性で眉を寄せて険しい面の仮面を被っていると、ふわりと笑った紫穂ちゃんが俺の胸ぐらを引っ掴んだ。「うわ、何する」抵抗虚しく至近距離まで近付いたお互いの顔に思わず顔が引くつく。近い近い吐息すら感じる! という焦りを精一杯ひた隠して紫穂ちゃんを睨み返すと、紫穂ちゃんは左手でそろりと俺の胸を撫でるようにして触れた。「私ね、アナタと二人きりでデートしたい」告げられた言葉に大人っぽい色気のある手付き。あまりにも情報量が多すぎてパンクしそうになる頭を必死に動かして、そこに潜む真意を探った。「お互い透視めないなら、ちゃんと会話して向き合うしかないでしょ?」ちがう? と首を傾げて俺を見上げる紫穂ちゃんはちょっとだけ困ったように笑っている。「……そうだな」俺の胸板に触れたままの紫穂ちゃんの手をそっと取って、相変わらず小さくて細い指先に指を絡めた。やっぱり紫穂ちゃんからは何も透視みとれない。どっちの意味で向き合うしかないのか、それを考えると気が重くて耐えられそうになかったけど、紫穂ちゃんが俺に覚悟を求めていることだけはよくわかった。「今夜、空いてる?」覚悟を決めて告げたお誘いに、当然でしょ? と言って紫穂ちゃんは笑った。
負け犬が勇気を振り絞るとき



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