紫穂ちゃんの誕生日にプロポーズしようと思ったら間男(仮)が現れて情緒をぐっちゃぐちゃにされた話。

「なぁ、今度技術研修でうちに来る間島って、紫穂ちゃんの同期か?」昼休み。たまたまランチの時間が重なって、一緒に食堂で昼ご飯を食べていた時だった。ふと思い出した技術研修の話を紫穂ちゃんに持ち出すと、紫穂ちゃんは途端に険しい顔をしてパスタを絡めていたフォークを力強くテーブルに戻した。「……間島って……間島真一郎?」「えっと……そうだな、間島真一郎くん。フルネームがすぐ出てくるってことは、ソイツと」「最悪!」仲良かったのかと聞き返すよりも早く飛び出てきた言葉に面食らって目をパチパチさせていると、紫穂ちゃんはもう一度、最悪! と大きな声で叫んだ。周囲の目も気にせずそんな反応を返す紫穂ちゃんがあまりにも珍しくて、こちらもどう返せばいいのか戸惑っていると、紫穂ちゃんは怒りをぶつけるようにフォークを掴んでパスタを勢いよく巻き取り始めた。「ホント最悪! アイツまだ諦めてなかったの! ホンット最低ッ! こんなトコまで追いかけてくるなんて!!!」荒々しく叫んだ紫穂ちゃんは、怒りをパワーに変えるようにもりもりとパスタを頬張り始めた。釣られるように自分も残った昼飯を口に運びながら、いまだ怒りが覚めやらぬ紫穂ちゃんに恐る恐る声を掛ける。「あー……その、なんだ。珍しいな、紫穂ちゃんがそういう反応するの」「そうかしら? そんなことないと思うけど」そう言って最後のひとくちをペロリと食べ終えた紫穂ちゃんは、丁寧にご馳走様をしてそのまま席を立った。「悪いことは言わないわ。先生はアイツに関わらないで」「はぁ? んなわけにはいかねぇだろ、ウチに研修に来るんだから俺が対応しないと」「ダメ。絶対ダメ」「えぇ?」「そうね……先生は本部にでも行ってれば? ちょうど皆本さんが腕のイイ医者の派遣要請出してたでしょ。アレ、先生が行くといいわ」「や、あの、そういう人事は俺の仕事……」「ついでに執務室に籠もって溜まってる部長サマのお仕事も片付けるといいんじゃない? 決まりね。完璧だわ」「あっ、ちょ、紫穂!」「じゃあね、先生。お互いお昼からも頑張りましょ? バイバーイ」ひらひらと手を振って紫穂ちゃんはあっという間に食堂から去ってしまう。恐ろしいことに立場は俺が上なのに彼女が言ったことはほぼ全て現実になってしまうのだから頭を抱えた。確かに、研修は現場に入ってもらうから俺の出る幕はないのかもしれないけれど、流石に一切関わらないっていうのはどうなんだ。こう見えて一応俺はここのトップなんだぞ――まぁ、紫穂ちゃんがここに所属するようになってからは部長という肩書きの信憑性は怪しいが。「……ったく。たまには俺を立ててくれよ」ハァ、と深く溜め息を吐いて前髪をかき上げる。まぁこの先俺があの子に負けっぱなしなのは多分ずっとで、一生振り回され続けるんだろうけど。「まぁ……誕生日の準備がしやすくなったと思えばいいか」紫穂ちゃん相手に隠し事をするのは難しい。だから誕生日まで会う機会が少ない方が、サプライズも成功しやすいかもしれない。付き合い始めてから五回目の誕生日。俺は紫穂ちゃんにプロポーズする。

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