司郎のくせに、なまいきだ

はぁ、ともやもやした自分でもよくわからない重たいものを吐き出すように、深く溜め息を吐いた。ゴロリと投げ出された自分の手足は、ジリジリと日に照らされて、肌に針が刺すようだ。焼けついた地面からも身体を熱せられて、不快そのもの。せめて日陰に移動しないと、と思うものの、どうも身体が重くて思うように動けない。どうしたものかと地べたに寝そべったままぼんやり空を眺めていると、ぱたぱたと小さな足音が近付いてきた。「真木ちゃん、何してるの?」ひょこり、と俺の顔を覗き込んだ紅葉のお陰で、若干眩しいと思っていた日差しが遮られる。それでも小さな頭だけでは太陽全てを遮るのは難しく、中途半端な逆光がしつこく俺を襲った。「……ちょっと……ぼんやり、してた」腕で日差しから目を庇いながら、のそりと身体を起こす。不思議そうに俺を見ていた紅葉の隣には葉もいて、二人はちょこんと俺の両隣に腰を落ち着けた。「最近多いね? どうしたの?」横からきょとりと俺の顔を覗き込んでくる紅葉の質問に、どう答えればいいのかと戸惑ってしまう。自分でもうまく処理しきれていない、感情なのか、思考回路なのか、よくわからないどうしようもないものを、誰かに伝えるために言語化する、なんて、どうも気恥ずかしくて自分にはできそうもなかった。「……どうもしない。ちょっとそういう気分なだけだ」同じように横から俺を覗き込んでくる葉の頭をくしゃくしゃと撫でながら、口角を緩く持ち上げる。幼い子ども特有の大きくて丸い、こぼれてしまいそうな目が不思議そうに見上げてきて、何故か心臓がドキリと跳ねた。その視線から逃れるように、フイと顔を正面に戻しながら、乱れてしまったふわふわの髪に指を通して整えてやる。「ほんとに? 悩みがあるなら聞いてあげるよ?」私たち家族だもん、と微笑みながら嬉しそうに俺を見つめてくる紅葉に苦笑いを返す。「……いや……本当にどうってことないんだ。気にしないでくれ」取り繕うように言葉を並べれば、ふーん? と訳知り顔でにやりと笑った紅葉が、おかしそうに首を傾げて、大人びた表情を俺に向けた。「少佐のことでしょ」「えっ」「だって少佐のお仕事、真木ちゃん絶対ついていくのに今日は一緒じゃないんだもの。何かあったのかなって思っちゃうわ」フフン、とまるで勝ち誇ったように告げた紅葉は、腕を組んで威張ってみせている。「女の子はねぇ、男の子よりもお姉さんなのよ!」だから私は何でもお見通し! と紅葉は自信満々に胸を張ってみせた。あまりにも的確な指摘に、ヒヤリと背筋が凍るのを感じながら、的確とは言ってもどこが的確なのかは自分でもわからないし、すっきりとしない曇り空のような思考回路に、ほんの少しだけ肩を落としながら溜め息を吐く。そう。当たっていると言えば当たっているし、当たっていないと言えば当たっていない。あまりにもふわふわとしすぎている。自分でも自分がよくわからない。少佐のせいでこうなっている、と言えば確かにそうだけれど、どうして少佐のせいでこうなっているのか、自分にはいまいち掴めていない。今日だって、本当は少佐の商談に参加はできなくても、終わるまで部屋の前で待っているつもりだった。周囲を警戒する意味もあるけれど、少佐の側で仕事を支えたい、その思いが強くて少佐の側を離れたくなかったはずなのに。どうして自分は今ここにいるんだろう。持ち場を決められていたわけでもないから、俺が今ここにいても全く問題はないし、少佐にはマッスルがついているから俺が守りにいく必要もない。少佐には俺がいなくたって、何も問題がない。それが、とても、悔しい。ふと、そこに考えが至って、あぁ、俺は悔しいのか、と気付かされる。紅葉の指摘がきっかけで、少しだけ自分の中に掛かったモヤが晴れたようだ。爽快とまではいかなくても、ほんのちょっとスッキリできたような気がして顔をくしゃりと綻ばせた。「……そうかもしれない。紅葉は大人だな」ぽんぽんと柔らかい手付きで紅葉の頭を撫でてやれば、紅葉は嬉しそうに目を細めて俺を見上げた。「でしょ? 家族に女の子は私だけだもん。私がしっかりしなくちゃ!」エッヘン、と鼻を高くしながらも俺に頭を撫でられている紅葉はまだ俺よりも幾分小さい。そんな少女がすっかり大人びて俺の前で笑っているのだから、一番年長の俺がくよくよしている場合ではないと気を引き締めた。「……そうだな……俺も、しっかりしなきゃ」俺たちのことを不思議そうに見上げている葉を膝に抱きかかえながら、どこまでも青くて遠い空を見つめた。

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