プロポーズ大作戦!!!

 「ねぇ紫穂、賢木先生、今週は週末の予定ないみたいだよ? 会ってきたら?」 待機室で買ってきたばかりの雑誌を広げていたら、薫ちゃんと葵ちゃんが部屋に入ってくるなり私に声を掛けてきた。それにゆるりと反応して顔を上げると、今度は葵ちゃんが言葉を続けた。「最近先生と時間取れへんでイライラしとったやん。たまには紫穂から誘って驚かせたったらええねん」「……別にイライラなんかしてないし、私は先生が会いたいっていうから付き合ってあげてるだけで」「またそんなこと言うて……ホンマに会われへんくなっても知らんで?」「そうそう、先生に愛想尽かされても知らないぞー?」「……それならそれで、清々するわ」「もー……またそんな素直じゃないこと言ってー……」 眉をハの字にした薫ちゃんと葵ちゃんから、フイッと目を逸らしてまた雑誌に視線を戻す。どうして薫ちゃんと葵ちゃんが先生の週末の予定を知っているの、なんてふと沸いたモヤモヤを打ち消すように、雑誌に集中しようと文字を拾っていく。それでも一度切れてしまった集中力はなかなか戻ってきてはくれなくて、二人の視線を感じながら少しイライラして雑誌を閉じた。 最近の私は少しおかしい。ちょっとしたことでイライラして薫ちゃんや葵ちゃんにも冷たい態度を取ってしまう。それが何故かはわかっていても、素直に認めたくない自分がいて、どんどん頑なになっている自分も自覚してる。「先生がどこでどうしてようと、私には関係ないもの」 まるで強がりを言うように呟くと、薫ちゃんと葵ちゃんがゆっくりとした動きで私の座っているソファに座り込んだ。両隣から腕を掴まれてぐいっと引っ張られ身を寄せ合う。「アンタな、幾らなんでも恋人にそんな態度はアカンのんとちゃう?」「そうそう。先生が年上だからって、甘えすぎはよくないと思うな!」「……なによ急に、二人して」「もうすぐ紫穂の誕生日じゃん。紫穂から約束取り付けちゃいなよ!」「せやせや。たまには素直になってみたらエエねん!」 ぐいぐいと押してくる二人に何だか違和感を感じて、するりと抜け出しソファから立ち上がる。「なんで私から誘わなきゃいけないの。それじゃあ私が寂しいみたいじゃない」 自分で言っておいて、しまった、と思ったけれどもう遅い。ニヤニヤした顔の二人が追いかけてきて、また私の腕に絡んでくる。「そっかー、紫穂寂しいんだ?」「だから最近なんやイライラしとったん? それやったら余計に素直に言うたらエエねん」「べっ、別に寂しくなんかない!」 カッとなって叫ぶと二人は余計ニヤニヤしながらフーン、と私の顔を覗き込んでくる。その視線から逃れたくて顔を俯けるとヨシヨシと頭を撫でられた。「紫穂はツンデレさんだから素直になれないのもわかるけど、たまにはデレとかないと先生本当にどっかに行っちゃうかもよ?」 薫ちゃんが口にした言葉に、思わず心臓がドキリと跳ねる。わなわなと震えそうになる唇を何とか誤魔化して必死に言い返した。「わ、私、ツンデレなんかじゃないわ! 先生が私のこと好きだっていうから付き合ってあげてるだけで!」 そう、先生は私のことが好き。だから私は先生に付き合ってあげてるの。それ以上でもそれ以下でもない。「私から誘わなきゃいけない理由が見つからないわ。先生が誘ってこないんだったら会う必要ないじゃない」 一息に言い切ってから二人に目を向けると、すごく怒ったような顔をして二人はこちらを見ていた。「……紫穂、ちょっとそれは言い過ぎだよ」「せや。アンタそんなんやったら愛想尽かされてもホンマ知らんで」 グサリ、と心に二人の言葉が突き刺さる。「好きなんやろ? 先生のこと」「プロポーズだって、ずっーと、もう一度、してくれるの待ってるんでしょ?」「……そんなわけ、ないじゃない」 唇を噛みながら、グッと堪えるように答えると、二人がぎゅっと横から抱き締めてくれて。「エエ加減素直になりぃや、紫穂」「ホントに、先生どっか行っちゃうかもしれないんだよ?」 二人の腕にぎゅっと抱きついて顔を俯ける。 素直になるって何? 私にどうしろっていうの。 言わなくても、透視なくてもわかってくれなきゃ嫌なのに。 それじゃダメなの? 先生が私のことを好きでいてくれる。 それで充分じゃない。「……素直になるなんて、難しいわ」 だって必要性が感じられない、と続けようとしたら、ぎゅーっと二人に抱き締められた。「もう! ホントその可愛さを素直に出せばいいだけなのに!」 薫ちゃんの言葉に、葵ちゃんもホンマそれ! と言いながら二人の間でむぎゅむぎゅと押し潰される。「ちょっ、ちょっと苦しいわ二人とも!」「ゴメンゴメン……でもさ、ホント、もうちょっと先生にも素直になってみなよ」「せやで、絶対世界変わるで?」 ね! と力説してくる二人に、うーん、と考えながら答える。「……やっぱり、必要性が感じられないわ」 私の気持ちは、ずっと秘密のままでいい。先生がこちらを見ていてくれるなら、自分の気持ちを明かすなんて、しなくていい。「もー! ホンマ、サイコメトラーはこれやからアカンねん! ちゃんと言わな伝わらんこともあるんやで!」「そうだよ、紫穂。たまには先生に好きってちゃんと言わないと」「……そんなこと、しないわ」 だって、怖いじゃない。私も好きだよ、なんて伝えて、先生が離れてしまったら。手に入れたらそれで終わりのあの人が、私に執着してくれる保証なんてない。だから、ずっと私を追い掛けて。私の気持ちは、ずっとずっと内緒のままで。

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