「だから、仕事はしょーがねぇだろ!」「でも!今日は先生の誕生日で、何ヵ月も前から約束してたのよ!」「わぁーってるよ!俺だって本音は行きたくねぇの!」そう、今日は俺の誕生日。朝から紫穂が我が家に訪ねてきて、一日中イチャイチャできる、ハズだった。紫穂を出迎えて、さぁ何処へ行こうかと話し始めたその時だった。どうしても俺の手が必要だという急患のオンコール。ガックリと肩を落として紫穂に向き直ると、紫穂が青筋立てて怒ってて。冒頭の言い争いに戻る。「本当に今日はできる限り電話するなって伝えてあったんでしょうね?!」「当たり前だろ!今日はひっさびさに彼女とデートだからってそこら中に言いまくったわ!」「でも、電話掛かってきたじゃない!」「どうしても俺が必要な手術なの!しょーがねぇだろ!」「でも!お医者さんは他にもいるじゃない!」目に涙を一杯に溜めて、紫穂が俺を上目に睨み付ける。あー、どうかそんな顔をしないでほしい。俺だって本当はイチャイチャしていたい。でも、俺は医者なんだ。「医者の俺を必要としてる患者がいるんだ。行かねぇと。」紫穂に言い聞かせるように肩を撫でながら告げる。「な。今日は聞き分けてくれ」埋め合わせは必ずするからと、ポンポンと頭を撫でて抱き締めると、ドン、と胸板を殴られた。「子供扱いしないでッ!」キッと紫穂は俺を睨み付ける。「子供扱いしてるわけじゃねぇよ!今日は仕方ねぇって言ってんだ!」久々の言い争いに、思わず大きな声が出た。それにびくりと肩を震わせた紫穂が、相変わらずの涙目でこちらを睨み付けながら言った。「わかった!もう知らない!勝手に出ていけば良いじゃないっ!」プイッと俺の腕から抜け出していった紫穂を追い掛ける時間の余裕はもうない。チッと舌打ちをして、鞄を乱暴に担いだ。「ああ、わかった!勝手にする!じゃあなっ!」我ながら最悪な別れ際だ。俺の方が歳上なんだからもっと余裕見せなきゃなんねぇのに。最後はこどもの喧嘩みたいな終わりになってしまったことを後悔しながら玄関に置いてあるメットを掴む。勢いのままバタンと閉まった扉を振り返りもせずに、そのまま職場へと駆け出した。
喧嘩してゴメンね?


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