『お願い。明日も一緒に居させて?』「ダメ。しほはこの部屋にいろ」『でも、今、センセイを一人にすると危ないの!』「そんなことないって。俺は自分の身くらい守れます」『そうじゃなくて…とにかく、明日も一緒に居たいの!』部屋に戻ってきてから、ずっと押し問答している。先生は、明日からは私にここにいろと言って聞かなくて。私は私で先生から離れる訳にはいかないと譲らなくて。じりじりしたやり取りで、ここの空気まで悪くなってしまいそうだ。「俺は、お前まで失いたくないの!」私を抱き寄せて先生は叫ぶ。――ああ、なんて甘美な言葉なんだろう。力一杯に抱き締められて、身体が潰れそうなのに、それすらも心地いい。でも、それを甘受していたら、先生は救えない。きっと、明日、先生は皆本さんと何か、あるはずだ。私は、それを全力で回避しなければ、ここにいる意味がない。『私だって先生を失いたくないのッ!』心の叫びをそのまま先生にぶつける。――明日、先生を一人で皆本さんに接触させてしまったら。考えただけでもゾッとする。――未来を知っている私が側にいれば、何かできるかもしれないのに、どうしてわかってくれないの。先生は私の思念に驚いたのか、一瞬目を見開いてからそっと私を抱き締め直してキスをした。「…ありがとな。でも、今の皆本は何しでかすかわかんねぇから。」『だから!私ッ』「だからこそ、大事なしほを、皆本に近付けらんねぇよ」わかってくれ、な?と私の耳許に吹き込む先生に、涙が零れそうになる。いや、猫じゃなかったら、きっと、声を上げて泣いてしまっていたと思う。先生の、一方的な愛が、痛い。私の心が、ぴしりと音を立てて、ひび割れていくようだ。『――そういうのは、紫穂に言ってあげなさいよ』本当に愛する相手に言うべきだ、そういうことは。私は所詮、仮初めの姿で、貴方を救いに来た、自分が誰かもわからない、貴方に恋する女なんだ。そんな愛を受け取っても、私の一方通行な片想いを自覚するばかりで、心が砕け散りそうになるだけで。胸の痛みを誤魔化すょうに、身体を丸めて先生に身を寄せる。「…しほ?」『私は所詮、猫だもの。人間には勝てない』皆本さんにも、紫穂にも勝てない。大きな愛を胸に抱えた貴方を占めるその二人に、勝てるわけがないのだ。『とにかく、明日、私は殺されるんだとしても、センセイに付いていくわ』強い視線を、先生にぶつける。これだけは絶対に譲れない。先生がどう言おうと、私は先生の命を守らなければ、ここにいる意味がないのだから。一切譲る態度を見せないでいたら、先生は流石に根負けしたのか、ふう、と息を吐いて、仕方なし、といった様子で笑った。「…わかったよ。でも、危ないと判断したら、即ここに連れ戻すからな」先生は私の頭を指で撫でながら、優しい声で言った。先生のことだから、明日の朝まで気を抜けない。私を置いてこっそり出ていくなんてこと、平気でやってみせるはずだ。先生より早く起きて、監視してなくちゃいけないのに、なかなかそれが難しい今の自分の身体が恨めしい。せめて、先生が起きたことを感知できる位置で眠ったなら、何とか先生が一人で出ていってしまうことを阻止できるかもしれない。今日こそ、先生のお腹の上で抱き合って眠らなければ。寝支度を進める先生を見つめながら、ベッドに飛び乗る。いつも通り、おいで、と声を掛けられて、そっと先生に寄り添う。先生にうりうりと身体を撫で回されて、そのままキスを落とされる。ここに来てから、幾度こうしたことだろう。これが最後かもしれないなんて、信じたくない。何としても、私は使命を果たさなくては。先生の暖かい体温に包まれながら、そっと目を閉じる。私の身体を撫でている先生の大きな手を感じながら、ゆっくりと襲いかかる睡魔に身を任せた。
あのね、明日になったらね



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