通い慣れた先生の診察室。診察台に横たわっているのは、この部屋の持ち主である先生で。今日別れた時と同じままの格好で、先生は深い眠りに就いている。この部屋に置いている私の白衣を身に付けて、気を引き締めながら先生の身体に向き合う。「一人で大丈夫そうか?」「蕾見のばーちゃんがいないんだもの。私がやるしかないじゃない」心配そうな皆本さんにふっと笑い掛ける。私だってレベルセブンだ。兵部少佐に、負けたりしない。先生の頭に触れて、髪の感触を確かめるようにするりと指を通す。すぅー、と深く息を吸って、キッと目を見開く。「三宮紫穂、解禁!」キィィィン、と力が発動する音が静かな部屋に響く。何かあったときの為に、と薫ちゃんと葵ちゃんは私の後ろに待機していてくれて。二人がいてくれるだけでも心強い。恐る恐る潜っていくと、記憶中枢に違和感を感じた。「記憶が…ブロックされてる?」「記憶を失ったわけじゃないってことか?」「わからない。もう少し深く潜ってみる」「充分気を付けろよ。何を仕掛けられたのかわからないからな」「わかってるわ。何かあったら、すぐに浮上する。」先生を挟むように向かいに立っている皆本さんと会話しながら、記憶中枢と思われるイメージに近付いていく。降り立った場所はたくさんの引き出しに埋め尽くされていて。くるりと周りを見回すと、やっぱり、鍵が掛かっている引き出しとそうじゃない引き出しとが混在している。この鍵を見つけ出せば、先生の記憶を取り戻せるってことかしら?「仕組みはわかったけど、あとはどうやって鍵を開けるか、ね」「鍵?鍵が必要なのか?」「ええ、記憶の引き出しに鍵が掛かってる、って言えばいいのかしら。とにかく、鍵を探さなきゃいけないのかも」「私たちも手伝おうか?」「せや、物探しやったら、人手があった方がエエで」「ちょっと待って…そもそも鍵が存在するのかわからないから…」引き出しに手を触れて、キィンと鍵穴を透視する。やっぱり、鍵は実在するものじゃなくて、抽象的なもののようで。兵部少佐そのものが鍵なのか、この部屋を構成している先生が何か持っているのか、どちらかのようだ。状況から考えて、鍵はこの中にあると考えるのが妥当かもしれない。もう一度透視てみようと他の引き出しに目を遣ると、キラリと光る、鍵の掛かっていない引き出しが目に入った。恐る恐る近付くと、引き出しがガタガタと音を立てて存在を主張していて。ゆっくりと引き出しに手を掛けると、ビリッと電気が走った。『やめろ、戻れなくなるぞ』頭のなかに、先生の声が響く。ああ、そこに、居るのね。ホッとしたような、嬉しくて涙が溢れそうな、あたたかい感情に充たされて、引き出しをそっと撫でる。「見つけたわ。もっと深く潜ってみる。」「おい!一人で大丈夫なのか?」「そーだよ紫穂!いくらなんでも…」「大丈夫。私はレベルセブンよ」絶対に先生を連れ戻す。そう強く心に誓って、引き出しを思い切り開いた。
夢の中へ。



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