「最近、暗いな。どうかしたか?」先生に声を掛けられて、どきりとする。するり、と私の頬を撫でてから、ソファの隣に先生が座った。「調子悪そうだけど、体調悪いって感じじゃねぇだろ?何かあったのか?」本当にこの男は。嫌になるくらい私の機微に察しがいい。聞く体勢を保っている先生に、ぽすり、と凭れる。黙って受け入れてくれる先生に、甘えるように頬を擦り寄せた。「…別に。ちょっと、ね」「…俺はそこんとこを聞かせて欲しいんだけど?」言いたくないようなことなのか、と頬にキスを落とされる。素直にそれを受け入れて、先生にぎゅーっと抱きついた。先生も、ふっと笑ってそれを受け入れてくれて、優しく抱き締め返してくれる。「何でも言えよ。無理に話して欲しいわけじゃないけどさ」私の頭を撫でた後、自然な動作で顎を持ち上げられて、唇を優しく吸われた。こんなに優しくされたら、話したくなくても話してしまう。先生も、それがわかっていてやっているのだろうから、本当にたちが悪い。ちゅっ、と頬にもキスを落とされて、思わず、んっと甘い声が出てしまった。それに気を良くしたのか、先生は私の頬をするすると撫でている。「…ねぇ、センセ」「ん?どした?」「…先生も、同じ気持ち?」「は?」何のこっちゃ?という顔で、先生は私を見てくる。その先生のあんまりにも惚けた顔に、上手く自分の心情を説明できるか自信がないものの、何とか伝えて共感を得ようと頭を廻らせた。「上手く言えないんだけど…」「ん?」「先生は…寂しくないの?」「は?寂しい?どうして?」「どうしてって…」どうして、と言われると本当に難しい。だって、嬉しいのに、寂しいなんて、相反している。自分でもどうにかしたいのに、どうにもできなくて、モヤモヤとしているのだ。「薫ちゃんと、皆本さん、無事にお付き合いを始めたでしょ?」「ああ…うん。まぁ、そうだな。やっと、くっついたな」「嬉しいのよ、そうなるようにお祈りしてたんだもの。でもね、何だか…」「取られちゃったみたいで、寂しい?」「…ちょっと違うけど、そんな感じ。」取られた、というよりも、置いてきぼりになった、という感じの方が正しいかもしれない。前に先生が言ってくれたように、そんなことで私たちの絆が消えるほど柔なものじゃないって頭では理解していても、何故か、とにかく、寂しい気持ちが消えてくれないのだ。先生は私を抱き締めたまま、ふむ、と考え込んでいる。そんな先生に甘えるようにきゅっと抱き着くと、先生も私を抱き締める力をそっと強くした。「一人じゃないのに、一人にされちゃった、っていうか…何だかよくわからないけど、寂しいの」先生は、寂しくないの?と腕の中から見上げると、んー、と真面目に考えてくれている先生が目に入る。「俺は…むしろ、やっとくっついてほっとしてるっていうか。納まるべきところに納まってよかったっていう安心感のが大きいかな?」まだまだ周り巻き込んで何かやらかしそうだけど、と笑う先生は、本当に嬉しそうで。二人のことを心から喜んでいるのだろう。私とは違って。先生は私と同じ気持ちなのかな、と思っていた淡い期待が消え失せる。「俺も、一人だったら寂しかったかもしんねーけど。今の俺には紫穂がいるし。紫穂がいるから寂しくねぇよ」言いながら、私にキスをする先生。じゃあ私は?私にだって先生がいるはずなのに、どうしてこんなに寂しいの?「今はさ、付き合いだしてすぐだから、そんな風に感じるのかもしんねぇけど、すぐに何も変わんねぇなって頭も理解して、寂しいなんて思わなくなるさ」ぎゅう、と私を抱き締めながら、先生は続ける。「自分で言うのもなんだけど、紫穂には俺がいるじゃん」先生は、そっと私の前髪を持ち上げて私の額にキスを落とした。「…そう、よね」優しく接してくれる先生に、更に甘えるように胸板に顔を埋める。するすると頭を撫でてくれる感触を味わいながら、ふぅ、と息を吐いて目を閉じた。
三年目の浮気。



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