「三宮さんって、年上の彼氏いるんだよね。」きた。この子たちは確かクラスの外部入学組。どこかで噂を聞き付けてきたんだろう。「やっぱり年上って優しい?頼れる?」馴れ馴れしい質問の数々に苛立ちを覚えながらも、それを一ミリも表に出さずに笑顔で答える。「優しくて、頼りになるわ。でもそれがどうしたの?」言外に、とっとと消えてと含ませて、同級生たちを見る。学校生活は楽しいけれど、こういうところは本当に面倒くさい。「…ねぇ、いろいろ上手い?」やっぱりコイツらもか。半ばもうウンザリしながら質問を聞き流す。「いろいろってなぁに?」本当はカマトトぶらなくなっていいんだけれど、何度も受けたこの質問にいい加減ウンザリしてしまっていて。「いろいろって、そりゃ、キスとかエッチとかだよぉ!」きゃあ、と急に浮き足立った同級生たちを一瞬だけ醒めた目で見る。仕方がない。高校生なんてそんなもんだ。一番性的なことに興味が高まる時期なのだ。自分よりも詳しく知っていそうな人間を見つけて少しでも詳しくなりたいと思うのは仕方がない。そして、年上の彼氏を持つ私がその標的になってしまうのも、きっと仕方がないこと。「…さぁ?彼は私を大切にしてくれてるから。他に比べる人もいないし」だからとっとと私の目の前から消えてくれる?と顔に書いてないかは心配だけど、こんな状況ももう慣れた。きちんと笑って答えられているはず。いつもならここで、はいこのお話はお仕舞いとできるはず、だった。「なぁんだ、まだ経験ないの?」ニヤリと厭らしく笑う女子がひとり。いつもとは違う展開に、表情が固まる。「年上と付き合っててまだ経験ないとか、相手に子どもだと思われてるんじゃない?」「え?」「三宮さん、大人っぽく見えるけど意外と子どもなんだね」行こっ!みんな、と私の周りに集まっていた女子たちが去っていく。私は固まったままだ。「コッワー…あれが女子のマウンティングか…」葵ちゃんが眼鏡の位置を直しながらそっと近付いてくる。葵ちゃんの言葉で、初めての展開に頭が固まってしまっていたのがやっとくるくると回りだす。そうか、マウンティングされたのか、私は。いつもなら、ゴゥッと怒りの炎を燃えたぎらせるところだけれど、今回ばかりはそうもいかない。「デリケートな話題に口出しするとか、ホンマ性格悪いで」そうなのだ。私にとってこの話題は非常にデリケート。というか、むしろ地雷だ。「マウンティングして自己満足するレベルの人たちに、私の悩みなんてわからないわ」「…紫穂」葵ちゃんがそっと私の肩に手をおいた。大丈夫だよ、とでも言うように。でも、正直、口では強がってみても、全然大丈夫じゃない。今一番の悩み事をこんな風に踏みにじられて、珍しく心に棘が刺さってしまった。「じょ、女子ってホントこわいよねぇー」薫ちゃんが目を泳がせながら近付いてきて。なんや自分、怪しいで、と葵ちゃんがジト目で薫ちゃんを見る。そう、薫ちゃんがこの手の話題になると挙動不審になるのも、実は私の傷を抉っている。透視た訳じゃないけれど、多分、私が予測するに、薫ちゃんと皆本さんは、既に何か経験済みなのだ、お付き合いしているわけでもないのに!「…女子って、ホントこわいわ」やっと出た言葉は呪いの響きを醸し出していて。二人がひきつった顔でザッと後ろに引く。もう、何で私がこんな思いをしなきゃいけないの。全てはお付き合いも三ヶ月目に突入したというのに何も手を出してこない先生が悪いんだわ!
黒砂糖にキスをして。



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