「お邪魔します」「堅苦しいのはいらねぇから。寛いでくれ」終業後、二人で近くのちょっと高めのスーパーに寄って、仲良く買い出しをして。酒とつまみ、食材を適当に籠に詰めて、レジに並んで、なんて、大学の頃以来だ。何となく気分も若返りながら、買ってきたものをキッチンに二人で運んでいく。「酒はダイニングに直接でいいか?」「そうだな、早速何か作るよ」「そんな急がなくてもいいだろ?取り敢えず何か飲もうぜ」ガサガサと、酒の入った袋を漁りながら、そういやとっておきのワイン、今日開けてもいいかもなぁ、とワインセラーを覗く。「ワインもあるけど、開けるか?」「…いや、呑みすぎると今日はマズイ気がするから」止めておくよ、と残念そうに皆本が笑って、ちぇっと口を尖らせる。皆本と二人で呑む、ということに、自分で想定していたよりもウキウキしていたことに気付いて、少し気持ちを落ち着ける。取り敢えずビールグラスを二つ用意して、買ってきたビールを注ぐ。適度に冷えたビールが完璧な泡バランスで注げたのを確認して、皆本に声を掛ける。「じゃ、取り敢えず乾杯しようぜ?」「…そうだな」乾杯、とグラスを鳴らす。ぐびりとグラスを煽ってビールを呑む。あー、最高。この瞬間はやっぱたまんねぇな。ぷはー、と一息ついていると、皆本の進みがあまり良くないことに気付いた。「どした?皆本」「…やっぱり、ちょっと料理させてくれ」頭を整理したい、と皆本はキッチンへと消えていく。その後ろ姿を見送って、余程悩みは深刻なんだなぁ、とちびりとビールを呑んだ。皆本が落ち着くまで、適当に買ってきたツマミを食べながら呑んでいると、あまりスッキリしない顔のままの皆本が料理を運んできた。「…おまたせ」「お、おう」久々の皆本の手料理に、気分は盛り上がっていくが、皆本のあまりの様子にテンションが微妙な位置で止まってしまう。「取り敢えず、食うか」「…そうだな」箸を手に取り、皆本の手料理を口に運んでいく。うん。相変わらずウマイ。酒も進む良い味付け。二人とも無言のまま黙々と食べ進めていく。っていうか!重い!空気が重い!耐えられねぇ!何だよ、一体何でそんな悩んでんだよ!君ら二人相思相愛だよねっ!?「だーッ!どうしたんだよ!皆本!」テンション低すぎだろ!と思わず叫ぶ。「わ、わるい…」「ひっさびさの二人呑みで、皆本の手料理食えるってのに、テンション上がってんの俺だけで超寂しいじゃん!」ワーッと叫ぶ勢いで感情を吐露する。本当に、盛り上がってるのは俺だけみたいで寂しい。どうせお前は、今も薫ちゃんのことで頭がイッパイなんだろ?俺なんかといるより、薫ちゃんといる方が楽しいって思ってんだろ。「そんなに悩みが深刻なんだったらよ、俺なんかじゃなくて、本人と直接話し合やいーじゃん」俺を巻き込んで、俺を悲しい気持ちにさせないでくれ。お願いだから俺のセンチメンタルを呼び起こさないでくれ。ぐいっとビールを煽って皆本を見遣ると、眉間に険しい皺を寄せてビールグラスを睨み付けていて。「…薫本人と話せたら、どんなにいいだろうね…?」ぼそり、と呟いて、皆本は一気にビールをぐびぐびと飲み干した。「えっ?ちょっ?皆本クン?」なかなかに荒れた飲み方に、心配になって声を掛けると、皆本はダァン、とグラスを勢い良くテーブルに置いてこちらを見た。「賢木ッ」「お、おう…なんだよ…?」キッと俺を睨み付けて皆本は言った。「僕に、せ、せ、せ、せ、セックスを教えてくれッ!」思いきり叫んだ皆本は、肩で息をしていて。俺は、ポカン、と叫ばれた内容を反芻して。「…え?…えええぇぇぇええッ!?」内容が内容であんまりにもな内容だったから、思わず大声で俺も叫んでしまう。顔を真っ赤にしてフーフー息を荒立てている皆本。どうやら冗談ではないらしい。「え?いきなりなんだよッ?!皆本クンらしくないッ!」「僕らしいって何だよ?!こんなの薫本人と話できるわけないだろッ!」「だからって俺に聞くのもどうなのッ!?」「お前くらいしか聞ける相手がいないんだよッ!」相変わらずフーフーと肩で息をしている皆本は、俺をギッと睨み付けたままだ。その勢いに飲まれてしまわないように、ふぅ、と息を吐いてから、皆本に向き直る。「でもさ、皆本。俺、もう紫穂のモノだから。お前のこと、抱いてやれない。」ゴメンな、と呟きながらビールを一口含む。あぁ、苦ぇ。学生の頃だったなら、エロの探求心もあって、そっちもアリだったろうけど、今はもう、そういうのは卒業してるから。心の中で皆本に謝っていると、皆本はプルプルと震えて俺をまた睨み付けている。「何で僕が抱かれるんだよッ!教えてもらうんだから抱く方だろッ!」「えっ?マジでッ!?そっちッ!?」自分が抱かれる側に回るなんて考えたこともなかったから、皆本に言われて背筋が震える。「や、でも、もう俺紫穂以外考えられないから…」「っていうか!そういう話ではなくッ!女性とのセックスについて口頭で教えてくれればいいんだッ!」「…あー…そういう話ね」がくり、と肩から力が抜ける。だって、そういうのって、普通実地で覚えるもんじゃん。俺だってお姉さんたちにいっぱい教えて貰ったし。つい勘違いしちゃっただけじゃん。ぶつぶつと呟きながら、顔を真っ赤にしている皆本を見遣る。「で?何でいきなりセックスよ?」「…ち、知識として必要、だからだ。」「…皆本?まさか薫ちゃんに手ぇ出そうってんじゃねぇだろうな?」俺の言葉に皆本がびくりと肩を震わせる。その様子にピンと来て、ため息を吐いた。「皆本、女の子の身体ってのは、男が思ってる以上に繊細なんだぞ?」「わ、わかってるよ」「なら、わかるな?そういうのはまだ早ぇよ。」ビシッと皆本を指差して言う。すると、皆本は眼鏡をくいっと直しながら、俺をしかめ面で見返した。「じ、自分達のことは棚に上げるつもりか?」「はぁ?俺達?」「賢木のことだから、もう、紫穂とは、そういう関係、なんだろう?」自分で言っておいて照れているのか、皆本は頬を赤くしている。対して俺は、皆本の言葉を理解して、ブフッと吹き出した。「な、何か勘違いしてらっしゃるようですけど、皆本クン、紫穂サンはまだ処女よ?」「……………………え?」皆本は俺の言葉に余程驚いたようで、嘘だろ、と呟いた。え、何その失礼な態度。「俺、まだ紫穂に手ぇ出してねぇよ?」改めて繰り返すと、皆本はサーッと顔面を青くした。わぁーお、面白いくらい真っ青。「どーした皆本、顔、真っ青よ?」いや、とか、そんな、とか呟いている皆本をこっちの世界に引き戻すように声を掛ける。そんなに驚くことだろうか。確かに、過去の俺を知っている皆本からすれば、有り得ないと思うかもしれないが。間違いなく、今の俺は表向き紳士だ。とは言っても、紫穂といろいろやってないわけではないので、裏側は他人に見せれない部分もあるが。「いくらなんでも酷すぎねぇ?その驚き方」流石に傷付くわぁ、と大袈裟に悲しんでいると、やっと皆本も浮上してきたのか、済まない、と一言呟いた。「まぁ、いいけどさ。で?薫ちゃんにせがまれて事に及ぶことになったけど、前知識がないから俺に泣きつきにでも来たわけ?」空になったグラスに追加のビールを継ぎながら、皆本に問う。すると、今度は冷や汗をかきながら皆本は目を泳がせていて。「いや、えっと、そう!そうなんだ!」「…………なんか皆本怪しいぞ?」「そ、そ、そんな、そんなことないよ?」しどろもどろしながら、皆本はビールを飲んで誤魔化す。いや、お前が誤魔化してる時点で何かあるって気付くだろ。「皆本クン?隠し事はよくないぞ?」「か、隠し事だなんて…するわけないだろ?」じゃあその間は何だと声を大にして突っ込みたい。何かもう俺のエスパーの勘がビシビシと働いちまって、答えを弾き出そうとしているが、信じたくない信じられない嘘だろやめてと心の中の俺が必死に現実逃避しているので、少しカマを掛けてみることにした。「ま、隠し事してないならそれでいいけど。それにしても最近、薫ちゃんまた綺麗になったもんなぁ」ちらり、と皆本の様子を窺いながら言葉を選ぶ。「そんな薫ちゃんに迫られたら、流石の皆本クンでも理性保てなくて困っちゃう、ってか?」明らかにギクリと肩を震わせた皆本。さぁ、皆本、どう返す?返答次第によっちゃあ、お前を成敗せねばなるまい。「う、あ、そ、そうなんだよー!僕も流石に参ってて…」「参っちゃって、遂に手を出しちゃった…ってか?」ギロリ、と視線を強くして核心を点く。皆本は俺の言葉にまた顔を青くして、ガックリと項垂れた。「う…つまり、その…はい、そうです」「お前ッ!なんちゅーことをッ!!!」思わず掴み掛かって殴りそうになるのを何とか堪えながらテーブルの上で拳を震わせる。「散々俺らの反対してたくせに、お前こそ自分のこと棚に上げてんじゃねぇかッ!」「いや、でも、違うんだっ」「はぁ?でももなにもねぇよ!違うとか意味わかんねえ!」「だからッ!失敗したんだっ」だから、未遂だ、と今度は顔を真っ赤にして俯いた皆本。「はぁ?失敗ぃ?」「…そうだ。だから、未遂なんだ…」もにょもにょと力無く呟く皆本に、少しずつ勢いが削がれていく。えっと?つまり?「薫ちゃんと致そうとしたけど、致せなかったとかそういう…?」「そうだよッ!だから恥を忍んでお前に教えを請いに来たんだろッ!」僕より経験値はあるじゃないか!とヤケクソ気味に叫ぶ皆本は、肩を怒らせて俺を睨み付けている。その勢いに圧されながらも、何とか皆本を睨み返して問う。「皆本、未遂が事実だとして、だ。ちゃんと薫ちゃんにフォロー入れたんだろうな?」「入れたさ!フォローになってるかはわからないけど、そこは、ちゃんと…」したはすだ、と力無く答える皆本に、何だか久し振りに人生の先輩としての俺が目覚めて、さっきまでの怒りモードから慰めモードに気持ちが切り替わっていく。「フォローも入れたはずだけど、お互い気まずくなっちまって目も合わせられないんだな?」「そ、そこまで言ってない!…けど、なんでわかった…」くしゃり、と前髪を掴んで皆本は俺をちらりと見遣る。そりゃわかるよ、人生の先輩としての勘だけじゃなく、俺はもう何年もお前の親友やってんだぜ?「まぁ、困ってる皆本クンを放っておけないんでね。取り敢えず、一から十まで包み隠さず話してみろよ」そう言うと、皆本も覚悟を決めたのか、ふぅ、とため息をひとつ吐いてから、俺に向き直った。「…三日前のことになる。たまたま、薫が僕の家に遊びに来てたんだ。それで、本当にたまたま、僕達しか居なかった。」薫ちゃんが勉強でわからないところがあるから、と、教科書とノートを広げて二人で仲良く勉強会をしていたらしい。隣同士に座って、いつも通り薫ちゃんの勉強のサポートをしていたら、ふと、お互い近い距離に居ることに気付いて、ドキドキして。どちらからともなく、近付いてキスをした。最初は触れるだけだったキスがどんどん深くなっていって、気付いたときには、もう後戻りできないところまで来てしまって。寝室へ行こうか、と声を掛けていた。「…皆本、お前、どんだけ少女漫画なんだよ」途中から、頭を抱えながら聞くしかできなかった俺は、思わず皆本に突っ込んだ。「つーか何寝室へ連れ込んじゃってるの!修行僧みたいな生活してる俺を見習え!」「…はい、その件に関しては弁解の余地もございません」俺の突っ込みにがくり、と項垂れた皆本は、眼鏡の位置を直しながら、続きを話し始めた。「で、まぁ、上手くできなくて。未遂に終わった。」「いやいやいやいや、はしょりすぎでしょ!そこ知らないとアドバイスもなんも出来ないよ?!」「えー…」しぶしぶ、といった様子で、皆本は続きを話し始める。恐る恐る、でも何とか薫ちゃんの服を脱がせながら、薫ちゃんのペースに合わせて身体に触れていった。沢山キスをして、甘いムードに包まれて。さぁ、いざ本番、と自分の準備を整えていると、薫ちゃんが急に緊張して身を堅くしてしまい、痛みも凄ければ、挿入することもかなわず、その日は断念せざるを得なかった。気にするな、とフォローしたけれど、薫ちゃんは泣き出してしまって。ぎゅっと抱き締めて服を着せることしか出来なかった。泣き止むのを待って、薫ちゃんをそのまま家に送り届けた。それが、一部始終。そこから、薫ちゃんに避けられている。「…あー、取り敢えずどっから突っ込めばいい?」「え、そんなにマズイのか…」「マズイもなにも、そのフォロー最悪だろ…」頭を抱えて、はぁ、と深くため息を吐く。さて、ここからどうやって挽回していくか、頭を廻らせる。「取り敢えず、土下座でも何でもして、薫ちゃんに謝れ。まずはそっからだろ。」「謝るって…どうやって」「薫ちゃんを傷付けて申し訳ございませんでした!当たり前だろッ!」「う。はい、肝に命じます…」「ったく、高校生同士だったら、下手すりゃこのまま別れ話だぜ?お互い一生モンの傷背負ったまんまでな」最悪のパターンだ、と呟くと、皆本はますます項垂れてしまった。項垂れている場合じゃない、この二人のことだから、きっと乗り越えられるだろうけど、これがきっかけで世界の破滅、なんて冗談はマジで避けたい。「まずさ、とにかく、女の子は俺ら男が思っている以上に繊細なの。単純で出来てる男と一緒にすんな?」「…はい、その件はもう頭に叩き込みました。」「多分、皆本が下手だったとか、そういうんじゃねぇんだと思うんだ。ただ、お前は薫ちゃんの心まで解せてはいなかった。」「…薫の心。」「だって、初めてよ?緊張して当たり前じゃん!」「ぐっ…ソウデスネ…」「薫ちゃんでも、痛いらしいとか、いろいろ前情報は聞き齧ってるだろ、多分。そんなんで、緊張すんなって方が無理だろ」ふぅ、とひとつ息を吐いて、ビールを煽る。何で俺は我慢に我慢を重ねて我慢しまくってるというのに、こんな説教をしなきゃなんねぇんだ。こんなことなら、紫穂にくっついて薫ちゃんとのデート邪魔してる方がきっと楽しかった。紫穂に殺されるから、そんなことしねぇけど。「薫ちゃんの緊張を解してやれなかったお前が一方的に悪い。最悪、女の子は受け身しか取れねぇんだからな。」積極的な女の子はいるにはいるけど、そんなのごく僅かだし、初めてでそんな女の子がいたら希少価値高すぎる。過去の薫ちゃんを考えてみると、そういうことに耐性がありそうに見えんことないが、あれは多分、本質を知らないからああだっただけで、薫ちゃんも中身は普通の女の子と変わらないはずだ。むしろ、薫ちゃんの中で王子様に等しいであろう皆本とそういうことになったなら、緊張でカチコチになるのは当たり前に決まってる。「っていうか、君らいつからそんなお付き合いしてんの?キスも初めてじゃないっぽいじゃん?」テーブルに肘をついて顎を支えながら問う。皆本と薫ちゃんはそういうことになるだろうと皆が予測しているだろうが、実際そういうことになってるとは紫穂からも聞いていない。「えっ?えっ、と、それは…なし崩し的な感じで…」「…皆本クン、俺は君がそんなに最低な男だと初めて知ったよ」「べ、ベッドで気持ちは伝えたさ!か、薫も、僕のことが好きだって…」明確にお付き合いしましょうって言葉がなく今まで来てしまっただけで、と弁解する皆本に、はぁ、とまたひとつため息を吐く。「…お前、それ、見方によっちゃ、最低のクズ男だかんな?」「え?」「だぁって、それ、下手すりゃヤり逃げ野郎が使う常套手段だかんな?」皆本の顔から、改めてサァ、と血の気が引いていく。「ぼ、ぼくは、そんなつもりじゃ…」「だから、誠意込めて謝れって言ってんだよ。何よりもまずはそこからだ。」それをやんなきゃ挽回もなんもできねぇし、と頭をガシガシ掻いて皆本を見遣る。「まぁ、お前がそんな奴じゃねぇっていうのは俺も充分わかってっから、これ以上は責めねぇけど」「そうしてくれると助かる…」「でもさ、皆本、さっきの口振りからして、俺らがもうそういう関係だからって気が緩んだ部分あんだろ?」ギクリ、と肩を震わせて、皆本が俺から目を反らす。「…やっぱりな。こういうのは、他人がどうか、じゃなくて、当人たちがどうなのか、が大事なんであって、ちゃんと目の前の薫ちゃんと向き合わねぇと」あ、俺、今超イイコト言ったんじゃね?と思いながら、皆本を見ると、皆本は少し考え込んでから、うん、と頷いた。「そうだな。少し、流されてた部分があるみたいだ。もう大丈夫。ちゃんと薫と話をするよ」そういう皆本の表情は、もう淀んでいなくて。これでもう、ほっといたって上手く纏まるしかないだろう。何てったって、皆本と薫ちゃんだ。どうせ少女漫画的な展開が待ってるに違いない。皆本の手料理に手を延ばしながら酒を煽っていると、皆本が少し言いづらそうに俺に問い掛けてきた。「それにしても…ひとつだけ、聞いていいか?」「ん?なんだ?」「その…賢木は、さ…どうしてるんだ?」「何がよ」「あー…その…溜まるだろ?いろいろ…」顔を真っ赤にして聞いてくる皆本に、思わずブーッと口に含んでいた酒を噴き出しそうになるのを何とか堪えて飲み込んだ。ゲホゴホと咳き込みながら、何とか息を整えると、皆本はまだ赤い顔で大丈夫かと俺に聞いてきた。「ゲホッ…大丈夫も何も…お前、他人のそういうの聞くの趣味なワケ?」「なっ!趣味じゃなくて!純粋に、紫穂と付き合ってるのにあの賢木がどうやって我慢してるのかと興味を持っただけだ!」いやいやそれ充分変な趣味だろ!と心の中で突っ込みながら、赤い顔のままこちらを見つめてくる皆本に頭を抱える。「…皆本クンも自分で処理するだろ?それと何ら変わんねぇよ」「え、本当に一人で済ませてるのか?」「当たり前だろ。他の女の子とヤったって、虚しいだけじゃん」「…賢木、本当に変わったな」「変わってねぇよ。本命ができたってだけ。」皆本につられて何だかこちらも頬が熱くなってくる。何でこんな赤裸々な話を皆本としてるんだ。「でも、三日前の僕みたいに、どうしても抑えられなくなるときってないのか?」いや、三日前のお前は知らねぇけど、と心の中で突っ込みながら、どこまで何を答えようか頭を廻らせる。言えることと言えないことの選別を頭の中でパパっとしてから、言葉を整理する。「そりゃもう、どうしてもって時はあるけどさ…手を出すのはちげぇじゃん。ひたすら耐えるしかねぇよ」「…お前、漢だな」少し誤解してたよ、という皆本は、感動の目で俺を見ていて。ゴメンよ皆本、でも、俺も男だからさ。紫穂とイケナイコトはやっちゃってるんだ、ゴメンな。心の中でテヘペロ、と皆本に謝罪していると、皆本が不穏な空気を纏って俺を見ていた。「でもさ、あの賢木が本当に紫穂と何も無いわけないよなぁ…?」ちゃっ、と眼鏡の位置を直す皆本の表情は、もう、先程とは違う、俺を追及するもので。あ、ヤバイ、嫌な予感がする。「僕だっていろいろ喋らされたんだ。君にもいろいろ喋ってもらうよ…?」ここに来て急に形勢逆転かよ!こうなった皆本は、絶対に話すまで諦めてはくれないのを身を持って知っている。「あー、うん。スンマセン。先に白状すると、俺たちには取って置きの秘密兵器があるから…」「秘密兵器?」「だから何とか我慢できてるってだけで、確かに何にもないプラトニックな関係ではない、かな…」はい、このお話は以上終了ー!と皆本のグラスにビールを注いで誤魔化そうとすると、全く誤魔化されてくれない皆本が更に追及するべく、ずずいっと身を乗り出した。「その、秘密兵器って何だい?」「いや、あの、それはちょっと…秘密だから秘密兵器っていうか、」「後学の為に聞かせてくれよ」「後学の為って、お前、何の後学の為だよ」「僕と薫の間にも何か活かせるかもしれないだろ」「いやぁ、それはちょっとないんじゃねえかな?」「そんなの、聞いてみないとわからないだろ」「うーん…皆本と薫ちゃんのキャラじゃねぇというか…」「へぇ?また僕に隠し事するつもりかい、賢木?」ぎろり、と皆本に睨まれて震え上がる。ていうかこれは隠し事っていうより秘め事では?と思ったけれど、突っ込んだら何を何倍で返されるかわかったもんじゃないので黙っておく。ジーッとジト目で皆本に睨まれ続けて、遂に心が折れる。ゴメン、紫穂。俺も皆本には弱いんだ。「テレフォンセックス」「え?」「だから!紫穂と時々テレフォンセックスしてるんだよッ!」聞いておいて、皆本はこっちまで伝染しちまうくらい、首まで真っ赤にしてあんぐりとこちらを見ている。「聞いといて真っ赤になって照れてんじゃねぇーよ!バカッ!」「や、ごめん。なんか、僕には想像できないかなって…」「だから言ったろ?キャラじゃねぇよって」「というか、お前、紫穂に何てことを…」「いや、そこ、想像すんな?紫穂が減るからッ!」ばん、とテーブルを叩いて皆本の思考を遮る。いくら育ての親っつったって、それは許せん!というか、育ての親なら想像したくない話じゃねぇのかよ!「そ、想像したわけじゃなくて、紫穂に何てことを教えてるんだと言いたくてだな!」「あっ、そういう…しょーがねぇーじゃん。いずれはそういう関係になるんだし、身体を慣らすって意味でもちゃんと教えていくのは大事だぜ?」「………そうか、僕に足りないのはその部分か…」ぶつぶつと呟き始めた皆本に、ふぅ、と息を吐く。「まぁ、歳も離れてっし、どうしても経験値が違うとな。こっちが教えていく必要もあんだろ」「そうか、そうだな。」「あとは、自分の性欲コントロール?これが学生の頃だったら、確実に我慢のし過ぎでストレス過多になってたわ、俺」あはは、と乾いた笑いを溢しながら、年取ったなぁ、としみじみ思う。「まぁでも、大人になったからこその楽しみ方もあるしな」「へぇ?なんだい、それ」「オナニーで道具を使うことに抵抗なくなった」ビールを飲んでいた皆本がブフッと思いきり噴き出す。おいおい人ん家汚すなよ。「ちょ、きたねぇな」「君が急に変なこと言うからだろッ!」ゲホゴホと咳き込む皆本にティッシュペーパーを渡して、布巾でテーブルを簡単に拭く。床まで汚れなくて良かった。部屋が酒臭かったら、あとで紫穂に何て言われるかわかったもんじゃない。「へぇ、皆本クン、オナニーは、素手だけ派?」「ふ、普通はそうじゃないのか」「最近のオナホはヤッバいよー?なんかもう、手離せなくなっちゃう?」「そ、そんなになのか?」「うん、ヤバイヤバイ。紫穂に貰ったんだけどさ、こんな世界があんのかって」「そんなにか?!」「そうそう、皆本も試してみって。確か…」自室に戻ってモノの銘柄を確認してスマホで検索しながらダイニングに戻る。パッとブラウザに表示された画面を皆本に示しながら続けた。「これこれ、何かめっちゃ有名らしいぜ?俺も素手派だったから全然知らなかったんだけどさ」「なんでそれを紫穂が知ってるんだよ」「そこは俺も流石に突っ込んだけど。まず18歳未満は買えねぇしな。」「じゃあどうやって入手したんだ?紫穂は…」「ネットで調べて買ったらしい。何かラジオで俳優がお薦めしてたとか言ってた」「深夜ラジオか?」「そうじゃねぇの?詳しいことは聞いてねぇけど。そういうのはちゃんと相談してから買えって叱っといた」「いや、叱るべきところはそこじゃないだろ…」そう言いながらも、画面をすわすわとスワイプして内容をガッツリ見ている皆本クン。やっぱり、お前も男なんだな。安心したぜ。「まぁ皆本もこーいうの使って学生の頃みたく出なくなるまでシちまえば、魅惑の薫ちゃんの誘惑にも勝てるようになるんじゃねぇの?」「魅惑のって…賢木、薫のことそんな目で見てたのか?」「見てねぇよッ!俺は紫穂一筋だってのッ!」「そ、そうだったな…」「とにかく、もうこの話はお仕舞いにしようぜ。楽しい気分で飲み直してぇ」「そうだな、久々に二人きりで飲めるんだしな…」にこり、と笑った皆本に、胸がきゅんと鳴る。二人きりの飲みを皆本も意識してくれたことが嬉しくて、にやけてくる。結局、その日はいろいろぶっちゃけたせいかおかしなテンションで馬鹿話をしながら結構遅くまで飲んだ。多分、明日会う紫穂には怒られるけど、たまにはいいじゃないか。今の俺が浮気じみた感情を抱くのは皆本だけだ。男同士なんだし、許してほしい。二人とも、床で力尽きていて、こんなのは本当に学生の頃以来で、朝起きたとき、お互いの寝癖を見て、顔を見合わせて笑った。
男同士の秘密の話。



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