「し゛~~~~~~~~~ほ~~~~~~~ッ!」皆本のマンションのエントランスに着くなり、薫ちゃんが凄い泣き顔で飛び出してきた。「じんぱいじだよ~~~~~」「ゴメンね、薫ちゃん…」紫穂が車から降りるなり飛び付いてきた薫ちゃんは、ぎゅうっと紫穂を力一杯抱き締めている。「ほんまやで、いきなり家出る!言うて飛び出した時はどないしよかと思ったわ」呆れ顔、でもホッとした様子の葵ちゃんも出てくる。そのあとに続いて、何とも言えない顔の皆本が駆け足でやってきた。「よっ!ただいま、皆本。宣言通りちゃんと紫穂を送り届けましたよ」「…あ、ああ、ありがとう。」別に帰ってこないと思ってたわけじゃないんだぞ、と眉をハの字にしながらブツブツと呟いている皆本に思わずブッと吹き出してしまう。「わ、笑うなよ、賢木」「いやー、ゴメンて。ホント、心配性の母ちゃんは苦労すんなぁと思ってさ」「僕は男だッ!」紫穂を囲んできゃいきゃいと騒いでいる女子たちの横で、皆本をからかう。心から皆のことを心配しているのがわかるからこそ、ちゃんと皆本の想いに応えなくては、と思う。「紫穂、先に皆本に言うことがあるだろ」紫穂を中心とした女子会が本格的に始まってしまう前に、紫穂へと声を掛ける。紫穂の彼氏だけど、俺だって大人だ。帰りの車の中で、紫穂と話をして、紫穂が納得するまで今日のことについて二人で話し合った。大人として、彼氏として、紫穂を導いてやるのも、きっと俺の仕事だ。「…」「ほら、臆せず言ってみろって」「?どうしたんだ、紫穂」話す勇気が出ない様子の紫穂の背中にそっと手を添える。大丈夫、俺がついてるよって伝わるように。皆本は、もう、普段通りの優しい笑顔で紫穂に向き合っている。「…皆本さん」「ん?なんだい?」「今日はごめんなさい。」ぺこり、と紫穂は頭を下げる。それに、慌てたように皆本は手を降った。「いや、僕も言い過ぎたよ。反省してる。」「私ね、賢木先生とお付き合いして、いろんな経験ができてるのよ。ホントに、いろいろ。まだまだ子どもなのに、ちゃんと先生は私と向き合ってくれてるの。」「…紫穂」「また、いつ、こうやって、腹が立って、カッとなって、飛び出しちゃうかもしれない。でも、ちゃんと、先生と一緒に帰ってくるから。」「…うん」「だから、まだ子どもかもしれないけど、私たちのこと、認めて欲しいの」紫穂の珍しく真っ直ぐな想いが皆本へと向かう。「私、ちゃんと、大人になるから。賢木先生に釣り合えるように。だから、こんなこと言うのは一方的だって思うけど、皆本さんも見守って欲しい」「……うん。そうだね、紫帆。賢木はこんなヤツだけど、本当に良い奴だから。いろいろ学ぶといい。」「おいおい、こんなヤツ、は余計だよ」紫穂の身長に合わせて視線を少し下げていた皆本に、軽くパンチを食らわせる。いてて、と言いながらも笑っている皆本に、ちゃんと事態を収束できたことを感じてホッとした。「セ、ン、セ~~~」「へっ?」「何このイケメン!紫穂ってばこんな格好いい彼氏と付き合ってんのっ?!」「いや、薫ちゃん、俺、昔からイケメンよ?」「そういう自分から言っちゃうトコがダメなのよ。」紫穂からの鋭いツッコミにグッと言葉に詰まる。「でもね、薫ちゃん。私の、だから。あげないわよ?」俺の腕を引っ張って軽く腕を絡めながら、紫帆はにこやかに笑った。急に近付いた距離にドキッとしながらも、何とか体勢を立て直す。「っくぅ~~~ッ!これが愛ってヤツですか!」うらやましぃ~~~と唸りながら薫ちゃんは地団駄を踏んでいる。葵ちゃんはずっと少しだけ頬を赤らめて俺たちを見ていた。皆本はというと、珍しく二人に牽制を掛けている素直な紫穂に驚いたのか、目をパチパチとさせていた。「紫穂ッ、今日は寝かさないからねっ!駆け落ちの顛末、ちゃんと聴かせて貰うから!」「ホンマや、今日のデートの内容も聴かせてやっ!」葵ちゃんと薫ちゃんが紫穂の腕を引っ張って俺から紫穂を引き剥がす。今日の逢瀬は、どうやらこれでお仕舞いらしい。「ゴメンね、少しだけ待ってくれる?」そんな二人を制止して、紫穂が俺の元に駆け寄った。「センセ、今日はありがとう。我が儘に付き合ってくれて」「あんなの可愛いお願いでしかねぇよ。これからもいくらでも言ってくれ、受け止めてやるから。」小さい声で、バカ、と紫穂に言われて、クスリと笑ってしまう。「…あのね、先生。今日は本当に嬉しかった。」「ああ。喜んで貰えたなら嬉しいよ」「うん…あと、あのね…」「ん?どした?」「…好きよ、先生。それだけっ!」「俺も好きだよ。またな」たたっと二人のもとへ駆け出していった紫穂の背中に聞こえる声の大きさで別れを告げる。振り返った紫穂は少しだけ照れていて、でも笑顔で手を振ってくれた。紫穂を待っていた二人の女の子たちは、それぞれが今の俺たちのやり取りを見てきゃあきゃあと言っている様子だった。本当に、今日、紫穂は寝かせてもらえないかもしれない。「…賢木って本当に気障だよな」「えー?これくらいドンドン愛を伝えていかないと、女性は逃げてっちゃうもんですよ、皆本クン?」「………俺も少しは見習うよ」小さな声でボソリと呟いた皆本に、ヒュウと口笛を鳴らす。「結婚式には呼んでくれよ?」「なッ、気が早すぎるだろッ!」「へぇ、その気はあるんだ?」「…賢木ぃッ!」顔を真っ赤にしてカッカとしている皆本に笑いながら、さて、と、踵を返す。「まぁ、今日の俺の役目は果たしたから、大人しく帰るわ、じゃあな」後ろ手に手を振っていると、皆本に呼び止められた。「賢木、今日は僕からもありがとう!」「いいっていいって」いつか、紫穂と共に未来を歩む時が来たなら、きっとお前は祝福してくれるだろ?「気を付けて帰れよ!」「おう!」振り返り、ピースをして皆本に挨拶をする。遠くでこちらを見ていた紫穂に向かっても、手を振る。さぁ、帰ろう。いつかは、紫穂を伴って一緒に帰れるといい。今はまだその時じゃない。いつか来る未来を夢見ながら、今夜は眠ろう。「おやすみ!紫穂!」願わくば、紫穂もそんな未来を夢見てくれていると嬉しい。まだまだ俺たちの未来は長いから、ゆっくり歩いていければいい。俺自身も、紫穂からいろいろ学ばせて貰っているから。二人で成長して、その未来を迎えられるように。今は、今の俺たちの形で、愛を紡ごう。
乙女心と機関銃。



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