「俺さぁ、一個だけ思ってたことがあんだけど、言ってもいいか?」「……はい、何です?」ひと気のないカフェテリア。賢木さんがキャンパス内で時間を潰すときにいつも過ごしていた場所。ここを教えてもらってからは、キャンパス内での僕らの居場所はめっきりここになっていた。お互いランチセットをつつきながら雑談をしていると、賢木さんがぽつり、と俯き気味に口を開いた。それを何の気なしに見つめ返していると、かちゃり、とカトラリーを置いてから、賢木さんはじっと僕を見つめた。「お前が俺に近付いてくんのは……論文か研究か何かの為か?」真っ直ぐに視線をそらさず、賢木さんは真剣な声で僕に言った。僕は一瞬言われた意味がわからなくて、ポカン、と間抜けに口を開けてしまっていたと思う。けれど、賢木さんの言葉を頭の中で反芻して、やっと意味を理解した途端、ズガンと頭を殴られたような衝撃を受けた。「そんな、まさか……そんなことあるわけないでしょう!!!」思わず大きくなってしまった声に、慌てて口に手をやってから周りを見回す。人も疎らなカフェテリアには、僕たちに気を掛けている人は一人もいなくて、ホッと息を吐いてから賢木さんに向き直った。「何度も言ったじゃないですか。僕はあなたと友達になりたいんだって」ぶつぶつと、疑われていたことに不貞腐れながら告げると、うーん、と唸りながら賢木さんは目をそらす。「いや、だってさ……超能力研究科の人間が、マイノリティの精神感応系の能力者に興味持ったのかなって、普通は思うじゃん」実際、お前、俺のストーカーだったじゃんか、と過去の僕の行動を指摘されて、う、と詰まる。「普通人(ノーマル)にはわかんねぇかもしんねぇけど、俺らみたいなのは、利用されることも多いんだよ」ふ、と暗い表情をして、賢木さんは淡々と言葉にした。その言葉の裏に、僕には計り知れない苦労が垣間見えて、思わず息を呑む。まるで、僕のことをそう疑ってしまっても仕方がないんだ、と言われているようで、とても胸が苦しくなった。だって、それが当たり前だと思ってしまうなんて、あんまりじゃないか。超能力があるから、普通に人付き合いをすることも叶わない、なんて。ぎゅっと潰れそうな胸の痛みを落ち着けるように胸を撫でながら、僕は一生懸命賢木さんに返す言葉を選んだ。「僕は……僕は! 普通人とか、賢木さんがサイコメトラーだとか関係なく、純粋に、あなたという人物を知りたいと、思っただけなんです」苦しくて、息が詰まりそうになるのを何とか誤魔化しながら、言葉を紡ぐ。誰かに利用されるだとか、研究対象だとか、そんなことでしか人間関係が成り立たないだなんて、悲しすぎる。力があるとかないとか、そんなこと関係なく、それこそ、男と女の違いだって乗り越えて関係を築いていくのが本当の人との繋がりなんじゃないのか。超能力があるからって、それを利用するためだけに近付くなんて、まるで相手を人間として見ていないみたいじゃないか。そんなのおかしい。憤るよりも何だか悲しくなってきて、じわりと涙腺が緩むのを感じる。僕が泣いたって何かが解決するわけじゃないのに、とても悲しくて。賢木さんが、そうやって、人を信じられなくなって、荒れた行動を取るしかなくなってしまったんだということが、とてつもなく悲しい。ぽとり、と耐え切れずに溢れた僕の涙を見て、賢木さんは目を見開く。それから、眉を寄せて、困ったように笑った。「……お前……本当に変わってるな」ふ、と肩の力を抜いて、椅子の背もたれに寛いだ賢木さんは、笑ったまま言葉を続ける。「ほんでもって、相当なお人好し」賢木さんはぎっと椅子の音を立てながらゆっくり身体を起こして、テーブルに片肘を突く。それから、顔をくしゃりと歪めて、もう一度笑った。「お前、本当に変わってるよ」身体を乗り出して僕の髪をくしゃくしゃと掻き混ぜた賢木さんの手は大きくて。同じ男性の手のはずなのに、何故か、ホッと心が緩んだ。目尻に浮かぶ涙を誤魔化しながら、やめてくださいよ、と言うと、俺より年下のくせに、と余計に頭をグシャグシャにされて。賢木さんの目が、ゆるりと柔らかく僕を見つめるから、ドキドキして頬が熱くなっていく。その表情があんまりにも綺麗で、僕は、顔に熱が集中するのを自覚しながらも見惚れてしまった。「赤くなっちゃって! 可愛いねぇ!」うりゃうりゃと笑いながら僕の頭を撫で回していた賢木さんの腕を取り上げて叫んだ。「もうッ! からかわないでくださいっ!」「いや、だって……あー、皆本くんはまだ十代なんだなぁって思ってさ!」あははと高らかに笑う賢木さんの表情は、本当に穏やかで。こんな風に笑うこともできるんだ、とどきりと心臓が跳ねた。あちこちに跳ねる癖っ毛がキラキラと光を反射するように揺れて僕の心を乱す。どうしてだか、賢木さんがふわふわした光を纏っているように見えて、ぎゅっと目を擦った。しばし視界をリセットするように瞼を閉じてから、ゆっくりと目を開くと、先程までの柔らかい表情が一切消え失せて、顔を青くしている賢木さんが目に入った。「え? 賢木さん! どうしたんです?!」がたりと慌ただしく椅子の音を立てて賢木さんに近寄ると、大丈夫、といった様子で、賢木さんは手のひらで僕の行動を制止した。「……わりぃ。今日、ちょっと雑音多いわ」ふぅ、と軽く溜め息を吐いてからゆっくり額に手をやった賢木さんは、どう見ても大丈夫な様子ではなく、心配が先行して思わず肩に手を乗せた。「大丈夫ですか? 顔色悪いですよ」「皆本、わりぃ。俺に触るな」透視(よ)んじまうから、と賢木さんは僕の手を優しく払った。その手は気遣いに溢れていたものの、とても他人に気を遣っている場合ではなさそうで。どうしたものかとオロオロしているともう一度、ふぅ、と溜め息を吐いた賢木さんがゆっくりと口を開いた。「時々、こうなるんだ。わーっと情報が溢れかえっちまって、思考が追い付かなくなる……」「……超能力の……暴走、ですか?」「いや、暴走したことねぇけど、暴走とは違うんじゃねぇの? 透視が効きすぎちまうって言った方がいいかも……」頭がパンクしそうになるんだよ、と苦笑いする賢木さんの顔色は、まだ少し青い。ふぅー、と深く息を吐いて椅子に凭れ直した賢木さんの様子を確認してから、自分の座っていた座席に戻る。頭痛を誤魔化すようにこめかみを押さえている賢木さんをじっと見つめた。「雑音、って言いましたよね? 具体的にどんな感じなんです?」僕の問い掛けに、ん? と顔を上げて賢木さんは首を撫でながら答えた。「わーっと頭の中に情報がいっぱい入ってくんだよ。こっちの意思とは無関係にな」「……賢木さんが透視(よ)もうとしてるわけではないんですね?」「当たり前だろ? だからさ、人混みとかでこうなると頭割れそうになるから、人の多い場所は意図的に避けてる」まぁ自衛策だな、と笑う賢木さんの表情は、幾分マシにはなっていた。でも、こういった事態が頻繁に起きているのだとしたら、それは本人にとって精神的にも肉体的にもかなりの負担になっているはずだ。能力の暴走? それとも、と考え込んで、ふと賢木さんの首元にぶら下がるペンダントが目に入った。「……もしかして、賢木さん。リミッターが合ってないんじゃないですか?」「リミッター……?」僕の言葉に、賢木さんは戸惑うようにそろりとペンダントトップを撫でた。急に不安そうに揺れる視線が、僕を捉える。「前に調節したのいつです?」「えっと……こっち来る前……だったかな?」「えっ!? マメに調節してないんですかッ!?」あまりの驚きに衝撃を受けていると、賢木さんは、ブツブツと小さく言い訳を始めた。「だって、こっちは日本より規制緩いじゃん。あんまりよく知らねぇヤツにいろいろ調べられんのも癪でさ……自分の調子は自分で透視すりゃいいし」僕の視線から逃れるように目線を外した賢木さんは、まるで子どものように頬を膨らませながら文句を垂れ流している。その自己管理のずさんさに眩暈がして頭を抱えそうになるけれど、そうこうしている場合ではない! と賢木さんの腕を掴んだ。「……行きましょう」「は? 何処へ?」きょとん、としている賢木さんを引っ張って無理矢理立たせる。「僕のラボです。今すぐ行きましょう」ちょっと待てよ、と言う賢木さんを置いて、二人分のトレイを返却口へ持っていく。僕の後を慌てて追いかけてくる賢木さんを確認して、僕たちはカフェテリアを足早に出て行った。「いきなりなんだよ。お前のラボに行って何すんだよ」早足で歩いていく僕の隣に並んだ賢木さんは鞄を抱え直しながら僕に問いかけてくる。僕はそれに溜め息を吐いて、真剣な目を返しながら答えた。「今からリミッターの調整を行います。恐らく、賢木さんの今の超度(レベル)にリミッターが合ってないんだ」だから情報の雪崩みたいなことが起きてるんですよ、と足を進めながら告げる。このままの状態が続いたら、賢木さんの脳に負担が掛かり過ぎて、損傷を与えかねない。一刻も早く賢木さんのリミッターを調節しないと、賢木さんの身に何かが起こってしまう可能性が高い。「ご存知でしょうけど、脳に損傷が起きたら、大問題なんですよ! どうしてそれを放ったらかしになんてできたんです!?」半分怒りながら賢木さんに向き直って告げると、仕方ねぇじゃん、とまた子どもみたいに不貞腐れてしまった。そんな賢木さんに呆れながらも、ふ、と肩の力を抜いて賢木さんの腕を掴んだ。「僕だったら知り合いです。僕になら脳波検査されても平気ですか?」じっ、と賢木さんの目を見つめると、うーん、と唸ってから、ちろり、と僕を睨み返してきた。「そーだけどさ……お前、やっぱりこれが狙いだったんじゃねぇの?」賢木さんの問いかけに、目をぱちくりさせてから、はぁ、と深く溜め息を吐く。「……もし、本当に、僕があなたを研究対象としてしか見ていなかったとして」そこまで一息に言うと、賢木さんは急に身構えたように身体に力を入れて、恐る恐る僕を見つめ返した。ああ、やっぱりこの人は。心がとても優しくて、何度も人に裏切られて、人間不信になってしまった、本当は素直で心の柔らかい、不器用な人。賢木さんの不安を払拭するように、ふわりと笑って賢木さんの両手を掴む。びくりと揺れた賢木さんを宥めるように、僕はぎゅっと手に力を込めた。「超度(レベル)の高いあなたが、それを見抜けないわけないでしょう? 僕の魂胆なんて、触れた瞬間に筒抜けになるはずだ」じっと賢木さんの目を覗き込みながら告げる。賢木さんの力は何でも見抜けるからこそ、透視(み)えるのが怖いんだということは理解できる。でも、その力があるから、僕の中にそんなものはないというのも透視(み)えているはずで。ちゃんと僕の思いは伝わっていると信じて、言葉を続ける。「僕は、賢木さんと知り合えて本当に良かったと思っています。そこに余計な感情なんてありません。僕は、『人間』賢木修二と知り合いになりたかったんだ」まっすぐ、視線をそらさずに、ゆっくりと丁寧に言葉にする。サイコメトリーなんかじゃなく、僕の言葉で、しっかりと想いが伝わるように。ゆらゆらと揺れている賢木さんの目を見つめて、言葉を続けた。「賢木さんの力に興味がないわけじゃない。でもそれは、僕にとってあなたの個性のひとつです。あなたを構成する一つの要素でしかない。力があるから賢木さんに興味を持ったわけじゃないんです。賢木さんのことを知っていったら、たまたまあなたが力を持っていただけのことです」ね、と、念押しするように笑うと、賢木さんは眩しそうに目を細めてから、くしゃりと笑った。「……確かに、お前みたいに素直な奴が、俺に隠し事なんてできないわな」はは、と笑う賢木さんに、ほっと肩の力を抜く。賢木さんが綻んだように笑うから、その表情に目を奪われて、きゅんと胸が音を立てた。ドキドキしていることを隠すようにパッと顔をそらして、再び歩き出す。「……いいから、行きますよ。脳波検査して、リミッターの調整しなくちゃいけないんだから」何故か赤くなった頬を見られたくなくて、足早に目的地へと進む。へいへい、と軽い調子で後ろから賢木さんがついてくる気配を感じてホッと息を吐いた。そのまま教授室に飛び込んで、検査機器の利用許可を取る。ちょうど機械の空きがあって、すぐにラボへ移動することができた。「脳波検査は初めてではないですよね。機械が違うから戸惑うかもしれませんけど、やることは同じです」テキパキと準備を進めて、賢木さんにも検査器具を取り付けていく。おとなしくされるがままになってくれていることにまたホッとして、検査に取り掛かった。「……賢木さん、やっぱり超度(レベル)が上がってるんじゃないですか?」「……え、嘘だろ?」「超度(レベル)シックスを振り切れてます。セブンまではいかないけど」「マジかよ……」驚いた表情を見せる賢木さんに、間違いありません、と頷いてみせる。「やべぇ。俺ってまだ成長期?」「……というより、精神感応系は、脳の演算能力が高まると処理能力も上がるので、その影響かもしれませんね」「そっかぁ……そういうことな……」納得、と呟きながら賢木さんはプチプチと電極を外していく。それを受け取って所定の位置に戻しながら、賢木さんの方に向き直る。「この結果を元に、リミッターの調節をしましょう。ちょうど僕が使ってる研究室がすぐそばですし、今の時間、誰もいないはずですから」検査機器の電源を落として、出力した検査結果をまとめながら時計を確認する。この時間はいつも僕が研究室を独占しているから、誰も近寄ってこないはずだ。荷物をまとめて鞄を担ぐと、素直に僕に従って賢木さんが僕の後ろについてくる。それが何だか嬉しくて、行きましょうか、と笑って賢木さんの横に並んだ。僕より少し背の高い賢木さんをちらりと見上げてから、視線を前に戻す。時々道案内をしながら、校舎の中を進んでいく。あっという間に着いた研究室の扉を開けて中を覗くと、目論見通り、誰もいなかった。「どうぞ。医学部と違ってゴチャゴチャしてるでしょうけど」扉のところで突っ立ったまま研究室へ入ろうとしなかった賢木さんに入室を促す。恐る恐る、といった様子で部屋の中に足を踏み入れた賢木さんが何だか面白くて笑ってしまった。「……他の学部の奴に関わることなんてなかったから、他の校舎に入んの初めてなんだよ」わりぃか、と照れながら言う賢木さんは何処か可愛らしくて。くすり、と笑いながら、こちらへどうぞ、と着席を促した。機材の準備をしながら適当に机を片付けて作業ができる環境を整えていく。じっと僕の様子を窺っている賢木さんの気配を感じて、にこりと微笑みかける。「大丈夫ですよ。この時間、ここには僕ぐらいしかいませんから」「それは……気配でわかるけどよ。そういうのを疑ってるんじゃなくて、なんつーか……」ガシガシと頭を掻きながら、賢木さんは言いづらそうに言った。「なんで……ここまでしてくれんのかなって」賢木さんから出てきた言葉に、はっと目を見開く。それから、ゆるりと笑って賢木さんに向き直る。「困っている人がいたら、手を差し伸べたいと思うのは、自然なことじゃないですか?」「……」「それが、友達なら、尚更」「……友達って……お前」「僕は、賢木さんと友達になりたいと思ってるし、僕としてはもう友達だと思ってます」少しの照れくささに鼻を掻くと、賢木さんも同じようでポリポリと頬を掻いた。「そっか……俺ら、もう、友達か」くしゃりと笑う賢木さんは、男の僕から見ても綺麗に笑って。「……長らく友達なんていなかったから。すげぇ、変な感じ」その笑顔に何だか無性にドキドキして、自分を保っていられないような、そんな感覚に襲われた。「……さ、早くリミッター外してください。とっとと調整してしまいましょう」メガネのブリッジに手を遣って、赤くなった頬を隠しながら機材を取り出すフリをする。ガチャガチャとどうでもいい精密ドライバーを机に並べながら、賢木さんに向かってバッと手を差し伸べた。「おう……よろしく」チャリ、とペンダントのチェーンが僕の手のひらで音を立てる。まだあたたかいそれは、賢木さんの体温を感じさせて、どきりと心臓が音を立てた。ぎゅっと手のひらのリミッターを握り締めて、机に向かう。何だかよくわからない自分の衝動から懸命に意識を逸らすように賢木さんのリミッターを観察した。「……だいぶ、古い型ですね。コレ」僅かな調整機能と電源のスイッチだけがついているそれは、見た目にも機能的にも経年を感じさせた。このリミッターが、賢木さんの手によって大切に大切に使われてきたことがわかる。「あー、まぁ、ずっとそれ使ってるからなぁ。何かいろいろ思い入れがあんだよ」俺の歴史っつーの? と賢木さんは頭の後ろで手を組みながら答える。そうなんですね、と軽く相槌を返しながら、リミッターを分解して基盤を確認した。大事に使われてきたからだろう、状態は悪くない。でも。「……言いづらいんですけど……賢木さん、このリミッター、もうあなたの能力値には対応しきれないと思います」そもそも超度(レベル)の高い賢木さんには、オーダーメイドのリミッターの方が合っている。なぜなら既製品はそこまで高い超度(レベル)に対応していない。そして、精神感応系は特に、それぞれの波長に合わせてリミッターを調節する必要があるから、量産された既製品は向いていないことが多いのだ。「賢木さんの波長に合わせるとなると、これよりも上位の基盤が必要になってくると思います」分解したリミッターを元に戻しながら、賢木さんに手渡すと、賢木さんは困った顔をしながら首の後ろに手を回してペンダントを付け直した。「マジかぁ……オーダーメイドとか、楽しそうだけど、金も掛かるし……第一、頼むところがわかんねぇよ」どうすっかな、と頭を掻いている賢木さんに、ピンと閃いて声を掛ける。「……僕に、作らせていただけませんか?」「は?」「僕に、賢木さんのリミッター、作らせてください」お代は材料費だけで充分です、と続けながら、賢木さんを見ると、賢木さんは目をまんまるにして僕を見ていて。「……そこまで甘えちまって、いいのか?」おどおどと僕の様子を窺いながら聞いてくる賢木さんを安心させるように笑いかける。「僕の経験値にもなるので。ぜひ、作らせてください」「……やっぱり、それが目当て」「もうっ! 何遍言わせるんです!? 僕はですね!!!」「ゴメンゴメン。わかってるって。助かるよ、皆本」ふわりと柔らかく笑った賢木さんの表情に、目を奪われる。いえ、別に、と、もごもご誤魔化しながら、わたわたと机の上の機材を片付けた。頭の中でリミッターを作る材料を集める段取りだとか、制作の手順だとかを考えて、僕は自分の中にある感情から一生懸命目を逸らしていた。
そう、これはたとえばの話。



コメント