決戦は木曜日。

「車でお迎え、とか、お嬢様の気分だわ」「大人の男のエスコート、体験してもらおうと思ってさ」待ち合わせは紫穂ちゃんのご実家の最寄り駅のターミナル。待ち合わせ30分前には車を停めていた俺はどう考えても浮かれてる。紫穂ちゃんを助手席に乗せて、早速車を発進させた。「お昼、食べられなかっただろ?軽いもん買ってあるけど食べる?」「…車の中で食べてもいいの?」「?ああ、溢しても大丈夫だよ。気にすんな」この日の為にピカピカに磨きあげた車体と、掃除しまくった車内。何から何まで全て紫穂ちゃん仕様にしてある。自分でも正直ここまでやるか、と思ったが、もしかしたら次に繋がるかもしれない。それなら、と頑張っちゃうのが男心ってモンで。「なら、食べてもいーい?お腹減っちゃった…」「いいよ。ついでに俺も食うわ」赤信号のタイミングで、後部座席に置いていたテイクアウトの紙袋をがさりと手元に引き寄せる。「俺のお気に入りの店のパニーニなんだけど。」軽く食べれるモンのがいいと思ってさ、とローストビーフのパニーニを紫穂ちゃんへ渡す。一緒に買っておいたドリンクをホルダーにセットして、自分の分のパニーニを片手に、ハンドルを操作する。「…片手で運転するの?」早速ローストビーフを頬張りながら、ジト目で俺を見てくる紫穂ちゃんに、苦笑い。「都内の運転でそんな器用なことしねぇよ」信号待ちの隙に、がぶりと大口を開けてパニーニを平らげていく。そんな俺の様子を見て、紫穂ちゃんは目を見開いてこちらをあんぐりと見ている。そんな顔も可愛い。「…逆に器用なことするのね、センセ」モグモグと口に入れたものを咀嚼しながら、親指で口に付いたソースを拭う。「そぉか?男なんて皆こんなもんじゃね?」ソースの付いた指を舐めて、また一口かぶりつく。「…皆本さんはそんなことしないもの」少し頬を染めて前に向き直った紫穂ちゃんは、モグモグと小さな口でパニーニを食べ進めていく。アイツ、俺の前では普通に男してるのに、チルドレンの前じゃ猫被ってやがるのか。だいぶ小さくなったパニーニを口のなかに放り込みながらドリンクを取る。炭酸の効いたレモネードを飲みながら、口の中をサッパリさせた。「…皆本も俺の前じゃ男だぜ?」「やめて!夢を壊さないで!」夢って、ホント君らは子どもの頃から皆本の近くに居すぎて、皆本を神格化してるに等しいよね、とガックリとした気分になる。そんな皆本に対して、俺なんて女好きのだらしない男くらいにしか思われていないのだろう。自分で考えながら、更にガックリとしつつ、レモネードをドリンクホルダーへ戻しながら、ハンドルを捌く。「ああ、そうだ、ドリンク。レモネードなんだけど、紫穂ちゃんのは甘めで炭酸弱めに作って貰ってるから」良かったら飲んで、と自分のドリンクの隣を指差す。紫穂ちゃんは、相変わらず、モソモソとローストビーフを堪能しているが、俺の話を聞いて、素直にドリンクに手を延ばした。パニーニを片手に、ちゅっと、一口ドリンクを飲んだ紫穂ちゃん。「…美味しい。」「だろ?」遠回りになるけど、俺の取って置きの店に寄ってきて良かった。紫穂ちゃんはレモネードを気に入ったのか、パニーニの残りを膝の上に置いて、両手で可愛くドリンクを吸っている。紫穂ちゃん仕様に、シロップ多め、弱炭酸を指定した俺を褒めたい。というか、無理聞いてくれたレストランのシェフにありがとうと心の中で叫ぶ。何より、紫穂ちゃんの好みをちゃんとリサーチできていた俺を自画自賛してやりたい。「ホントに美味しいわ、これ。」「自家製のレモンシロップに、生搾りのレモンも入ってるしな。そこらのレモネードとはひと味違うぜ」車を運転しながら、俺拘りのチョイスをアピールする。紫穂ちゃんは余程気に入ったのか、ドリンク片手にパニーニの続きを食べ始めた。「今度、店に連れてってやろうか?」「…また機会があればね」これは期待してもいいんだろうか。ハンドルを握ったまま、にやけてくる顔を必死に引き締める。それは次の機会があるかもって期待していいの?今日、このデートを楽しかったと感じてもらえたなら、俺と居て良かったと思ってくれたなら、またデートしてくれるんだろうか。「じゃ、またの機会に是非」出来る限り紫穂ちゃんの心の奥底を掴めるように、ありったけの甘い声を出す。紫穂ちゃんがくすぐったそうに頬を赤らめたのを確認して、自らも笑みを深めて目的地へと急いだ。

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